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2012年7月26日木曜日

真夏の夜の夢


★BARの重要な仕事のひとつに『待つ』ということがあります。

★今日、ご来店のお客様を待つとか、暫くお見えでないお客様にこの店を思い出してもらえるのを待つとか・・・


★かつてAさんという男性のお客様がいらっしゃいました。彼は身体も大きく、声も大きく、よく飲み、よく騒ぐ人でしたが、愛嬌があり周りの人から愛されるキャラクターの持ち主でした。

★わざと憎まれ口を叩く人でしたが、その言葉とは反面にとても優しい態度で逆の行動をとる人でもありました。

★私が月読に移転するとき、Aさんはいつもの調子で「義理で次の店には一回だけ行ってやる! それでお別れや!」といっていましたが、実際には月読をオープンしてからは彼の友人や奥様を連れて何度も来てくださり、零細BARの月読は本当によくお世話になったものです。


★Aさんはよくお酒を飲まれましたが、とりわけテネシー・ウイスキーの『ジャックダニエル』がお好きで月読でもボトル・キープをされていました。飲み方はいろいろでしたが、いちばん多かったのはソーダ割りだったように思います。よくご相伴に預かりました。

★そんな彼の口癖のひとつに
「BARはイリュージョンでないとあかん!」
「ここに飲みに来たときにあっと言わすような驚きや感動がなかったらあかんのや」
というのがあり、このセリフのときはは何故か真顔で話されていたことを覚えています。そして「おまえやったら出来るやろ!」とも。

★「いいえ、まだまだその領域には程遠いですよ・・・イリュージョンなんて・・・」と私。

★そのAさんが数年前の夏の日、事故で亡くなりました。もうすぐ彼の命日です。

★今、月読にはAさんの奥様と可愛がっておられた娘さんがたまにお見えになります。


★思うのです。あるお客様が来なくなり何年もの月日が経ってから、ふらっとまた気まぐれに店のドアを開く人もいらっしゃいます。
「Aさん、BARがイリュージョンでないとダメなら、まずあなたが見本をみせてくれませんか?」と言いたいですよ。

★・・・できないでしょうね。でも待ちますよ、それがBARの仕事ですから。それからね、あれからひとつだけイリュージョンを使えるようになりましたよ。ある親娘が飲まれても次の日には必ず元の量に戻っている不思議なウイスキーのボトルが一本、月読のバック・バーに置いてあります。たぶん月読がある限りはずっと解けない魔法のかかったボトルです。


★あなたがいつか安曇野に住みたいといっていたことを覚えています。実は鉄道ファンだったことも。それからジャズも好きではあったけれど吉田拓郎が大好きだったことも。


★Aさんが持ってきたことのある吉田拓郎のアルバム、『元気です。』の収録曲に”夏休み”という曲があります。

麦わら帽子はもうきえた たんぼの蛙はもうきえた
それでも待っている 夏休み
西瓜を食べてた夏休み 水まきしたっけ夏休み
ひまわり 夕立 せみの声

・・・それでも待ってる夏休み・・・







2012年7月20日金曜日

ふたつのサービス


★『バーテンダーズ マニュアル』という本があるのです。何度も改訂版が発行されていて、おそらくどのBARにも必ず置いてある1冊です。


★カクテルのレシピなんかも少しは載っているのですが、内容の多くはバーテンダーやBARという営業店のサービス・マニュアルとお酒の基礎知識や歴史などについてが殆どです。


★つまり一般の人が読んでもあまり面白い本ではないのですが、それなのにもう何版もでているのですから、いかに多くの店やバーテンダーが買ってるかが分かると思います。


★さて、この『バーテンダーズ・マニュアル』にも書かれているように、飲食店におけるサービスはマニュアル化されていることが多いのですが、それができるサービスを『見えるサービス』、できないサービスを『見えないサービス』と個人的に分けて考えています。

★『見えるサービス』はたとえば「いらっしゃいませ」と挨拶をするとか、タバコの吸い殻は2本で新しい灰皿に変えるとか、ボトル・キープのお客様が飲んでいる水割りのグラスの量が半分を切ったら新しく作り足すとか。(スナックやクラブ的な例ですね(笑))

★でも、本当はこれらのことだってお客様の個々の好みがあるはずなのです。吸い殻が灰皿にたくさん溜まるのが好きな人だっています。


★ボトル・キープの水割り、グラスに完全になくなってから新しく作ってほしい人もいます。

★個々のお客様の好みは何度もそのお客様と接してるうちに少しずつ分かってきますが、初めてのお客様でも”視線” ”瞳孔” ”表情” ”躰の向き” ”手の動き”、あとは状況判断などである程度の方向付けは可能です。

★それらに細心の注意を払って臨機応変に行うのが『見えないサービス』です。お客様にはわからないけれど、でも店を出るときに『なぜか居心地がよかったな』と思っていただけるサービス、これとマニュアル化できる『見えるサービス』をうまく使い分けるのが理想のサービスだと思っています。

★では『見えないサービス』の一例を。

★数年前、『コーヒー&シガレッツ』という映画が上映されました。何篇かのオムニバス形式でモノクロの映画です。タバコとコーヒーのある風景の中でされる会話を切り取ったものですが、ありふれた景色の中に喜怒哀楽が盛り込まれている秀作でした。

★さて、年配のご常連様がこの映画を観てから月読に飲みにいらっしゃいました。珍しく奥様もご同伴です。奥様曰く「主人に映画に連れて行ってもらえるのはいつ以来かしら(笑) その上、BARにまで飲みに連れてきてくれるなんて!」

★ひとしきり映画の回想をご夫婦で話されながら、ご主人はバーボンのオンザロック、奥様は軽い水割りを飲まれていました。


★話がひと段落したとき奥様がおっしゃいました。「私たちは以前は二人ともタバコを吸っていたのですよ。健康のためにやめたのだけど、煙草の映画を観たら久しぶりに一本くらい吸ってみたくなったわねえ」と。

★「あいにく月読にはタバコを置いていないのですが、以前にお客様が忘れていったタバコがあるのでそれを吸われますか? 大丈夫ですよ、その方はよく知っているのであとで新しく買って渡しておきますから」と私。

★こうしてその年配のご夫婦は久しぶりのデートで久しぶりのタバコを吸われることになったのですが、さてここでは灰皿がいちばん大事なポイントになるのです。

★『見えるサービス』のマニュアルなら灰皿は各自一皿ずつです。そうすると下記の写真のような図になります。



★これだと普通のカウンターの間取りですね。でもこの場面では久しぶりにご主人とデートした奥様をもっと喜ばして差し上げたいのです。そのためにマニュアルは無視して『見えないサービス』を行います。つまり灰皿をわざとひとつだけしか出さずにご夫婦の真ん中に置きます。すると、こうなります。


★灰皿が真ん中にあることでお二人の距離が縮まり、肩を寄せ合ってタバコを吸うことになります。このことで奥様がどう思われたかは実際にはわかりませんが、バーテンダーのサービスは常にこういったことを考えながら、見えないところで行われています。



2012年7月19日木曜日

ピスタチオのオマジナイ

★ピスタチオ、知っていますか? BARのオツマミでよく出されるナッツです。最近はピスタチオのアイスクリームとかもありますね。


★ピスタチオは殻に入っていて、手で割ってから中身を取り出して食べるローストされたナッツなのですが、以前働いていた店で酔っ払うと殻だけ口に放り込んでバリバリと音を立てながら食べ、中身はピスタチオが盛られていた皿に返すという強者がいらっしゃいました。


★今回、その方とは別にもうひと方、ピスタチオにまつわるエピソードがあるのでご紹介したいと思います。もう30年以上前のお話なので時効ですよね。(笑)

★私が初めてBARでアルバイトをしたときの出来事です。その頃、1年間くらいホールまわりの仕事をして、やっとカウンターに入って接客をさせてもらいました。私は学生でお客様はすべて年上の方ですから、もちろん上手に話し相手が務まるはずもありません。

★そんな中、ある一人の男性は私に気軽に声をかけて話をしてくれました。年齢は30代で確か広告代理店に勤務していたと記憶しています。ちょっとインテリ風な会話で、でもよく笑われるスマートなお客様でした。

★あるとき、その人がグレンリベットというシングルモルトを飲みながらピスタチオをオツマミに食べておられました。その人曰く、「グレンリベットのラベルは飾りがなくシンプルで潔い。攻撃的なイメージがあるので好きなんです」とよく言っておられました。

(写真上のグレンリベットのラベルは現在のものです。30年前はもっとシンプルだったのです)

★その人は学生である私にも敬語を使って話してくださる紳士な方でした。『攻撃的』なのが好きなのは多分、広告代理店という職業柄でしょうか。時はバブル経済の真っ只中でイケイケの時代でしたからね。

★グレンリベットなどのシングルモルトは当時、BARでも珍しい少数派のウイスキーでした。。それでもその男性はいつも飲んでいたのでやはりスマートだったのでしょう。オツマミのピスタチオも人気のナッツです。よく見かける光景でおかしくはありません。でもなにか変なのです。

★その人はピスタチオの中身を食べたあと、殻を再び合わせては元の形に戻して、カウンターの上に並べていました。


★私が不思議そうに見ていると、その人はあまり元気のない、およそ攻撃的とは無縁の意気消沈した声でポツリ、ポツリと話してくれました。

「ピスタチオの殻をね、中身を抜いてこうやって合わせて元の形にするんですよ」

「そうするとね、カウンターの上に置いて手を離しても形が崩れないピスタチオがたまにあるんですよ・・・なかなかできないのですけどね」

「この中身のない、殻だけのピスタチオで輪をつくるんです」

「綺麗に繋がった輪を作ることができると願い事が叶うのですが、輪が大きければ大きいほど叶う願いも大きくなるんですよ」

「・・・いや実は先週、彼女に結婚を申し込んだのですが、あまり思わしくなくてねえ・・・」

「返事が”Yes”ならこの店に来てくれることになってるのです」

★待ち合わせの時間はかなり過ぎているようでした。それでもMr.スマートはピスタチオの皿をおかわりし続けて、着実に殻の輪を大きくしていきました。


★『ピスタチオの殻の輪』伝説。BARにはこんなゲームが数多く伝わっています。

★時には、退屈しのぎのお遊びで。

★時には、まやかしと知りながらも何かにすがりたい一心で。



★さて、Mr.スマートのその後。結局、彼女は店に現れることはありませんでした。彼女を待ち続け、どんどん円周を広げていった殻のピスタチオの輪は、最後まで一度も端と端が繋がることはありませんでした。

★ピスタチオを食べすぎた彼は、ついに鼻血をだしてドクターストップ。哀しい結末です。現実は映画やドラマのようにはいきません。それでも私は今なお、Mr.スマートのことをカッコいいと思っています。

★この回を読んで頂いた方、願い事はありませんか? その願い事はどのくらいの大きさですかねぇ? 『ピスタチオの輪』、つくってみます? 



2012年7月14日土曜日

カサブランカ・ダンディー

★ハンフリー・ボガートをご存知でしょうか? 名作映画『カサブランカ』等の主演で有名なハードボイルドな俳優です。彼が活躍していた当時、彼の名は『カッコイイ男』の代名詞であり、今なお映画やTVドラマなどでクールな男を演出するためにトレンチコートを着せるのはハンフリーボガートの影響によるものです。

★ハンフリー・ボガート、通称『ボギー』。彼が好きだったことで有名なお酒があります。これは多分どこのBARにいっても置いてある程、ポピュラーなリキュールなのですが、名前を”ドランブイ”(ドランビュイ)といいます。スコッチ・ウイスキーに蜂蜜や幾種類ものハーブがブレンドされていて、その製法は当時、いまでいう『国家機密』のようなものでした。


★リキュールであり蜂蜜も入っていることから、当然甘いお酒です。ハードボイルドの第一人者であるボギーが甘党であるというのはちょっと微笑ましいですね。ただ、このドランブイの甘さを理解できるのは『苦味を知る大人の男』だけだとも言われていますが、さて真相はいかに。(笑)

*―――*―――*―――*―――*

★BARではたまに店の方からお客様にお酒をサービスで(無料で)お出しすることがあります。いくつかのケースがあるのですが、今回はそのうちのひとつのパターンをご紹介。

★たとえば男性が3、4人集まって飲んでいるときです。よくあるのは仕事の話をされている場合。最初は楽しくワイワイやっていたのに、いつの間にか議論が白熱して喧々諤々。どうやら怪しい雲行きです。男性同士が仲間内で論争をしているとき、意見や考え方が3者3様であればモメていても問題ないのですが、これが1対2とか1対3とかであれば要注意です。とくにBARではお酒を飲んで多少なりとも酔っているので普段よりもつい勢いがついてしまいます。その結果、場合によっては収集がつかなくなって大きな傷が残ってしまうこともあります。

★ここで取り返しがつかなくなる前に何とかする方法ですが、お酒でついた勢いはお酒で止めるのがBARの流儀です。

★いよいよ議論が攻撃的になってきた頃、ハードボイルドな男の酒”ドランブイ”の登場です。ただしカクテルとして。

《ラスティーネール》
~スコッチウイスキーとドランブイをロックグラスに注いで作るシンプルなカクテル。意味は『錆びた釘』~


★このカクテルは比較的簡単に(作業時間が短いという意味で、適当に作るという訳ではありません、念のため)できるのですが、こんな場面では3,4杯同時により早く作りたいので、ミキシング・グラスという大きな混ぜるための容器でまとめて作ってしまいます。それを従来のロックグラスではなく小さめのワイングラスなんかに注いで、くだんのお客様の間に割って入ります。(笑) いざ!

★「白熱して話されていますが、ちょっとブレイク・タイムにされませんか?」
「このカクテルは甘口ですが、議論に疲れてくる頃にはちょうどいい息抜きになりますよ」
「勿論、これは店からのサービスです」
・・・だいたいこれでお客様ははっと我に帰って一旦、場は沈静化してもらえます。

★そしてお客様から次に帰ってくる言葉はだいたいこんな内容です。
「ああ、ちょっと騒がしかったかな? 申し訳ない。」
「では遠慮なくいただきます」
「ありがとう」・・・etc

その後、最後に必ずこう聞かれます。(もし聞かれなければ自分からいいますが)
「で、このカクテルの名前は何?」と。

★「このカクテルの名前は”ラスティー・ネール”といいます。ハンフリー・ボガートが愛飲したリキュールで作られています。」

★ご年配の方ならボギーの演じたスマートな主人公を思い浮かべたりされるのでしょうね。で、その後に続けてこんな説明を付け足します。
「ラスティー・ネールの意味は”錆びた釘”なのですが、スラング(隠語)では”頑固者”らしいですよ(笑)」と。


★お客様はちょっとだけ苦笑いをされて、後は争うことなく収めてくださることになります。どんなお客様にも通用する訳ではありませんので、いつもこの手段を使うことはありませんが、状況を判断して瞬時に最も望ましいお酒を提供するのはバーテンダーという仕事の見せ場でもあるのです。ちょっとエラソーですか?(笑) _(_^_)_ 

★ところでBARでの言い争いで男性同士の場合は収集がつきやすいのですが、これが女性同士になるとカクテルなんか…ましてや男の仲介ではまったく歯が立ちません。逆らうことなく嵐が過ぎ去るまで待つことにいたしましょう…出る幕はなしです。

★かつて沢田研二氏が往年のヒット曲『カサブランカ・ダンディー』でこう歌っていましたが…


「ボギー! ボギー! あんたの時代は良かった。 男がピカピカの気障でいられた」


★さてもうひとつのケース。男と女の言い争いにはどうしましょうか?沢田研二ならこう言うでしょうね。

「勝手にしやがれ!」と。








2012年7月13日金曜日

アイスクリーム・カクテル

★子供の頃、家族で車に乗って京都の丹後地方にある久美浜というところに行くことがありました。久美浜は京都府の北西の海岸沿いにあり、そこは父方の田舎でした。

★京都”市”に住んでいることで感じる最も大きな不満は近くに海がないということで、それは子供心にとっては決定的なダメージです。

★それでも久美浜に田舎があったことは幸いで、毎年夏になると10日程は泊まりに行って海水浴を楽しむことができました。

★そこでは祖母が畑をつくっていたのでトウモロコシをもいで土間で焼いて食べたり、五右衛門風呂を焚くのに蒔きを割って火を焼べたりする生活でした。今思うとそれはとても豊かで贅沢な経験だったのですね。

★さて、今回の本題は田舎暮らしではありません。実は子供の頃、車で久美浜に向かうときに楽しみなことが海以外にもうひとつありました。


★それは何かといいますと、道中の川沿いの道に『コロンボ』という喫茶店がありまして、いつもそこで途中休憩をとるのですが、そのときクリーム・ソーダを飲むことができるのです。それが海水浴と同じくらいにとても楽しみだったのです。

★私が幼少の頃はまだファミレスなんてなかった時代ですから、クリーム・ソーダは喫茶店にでも入らないとなかなか飲めるものではなかったのです。コーラでもなくファンタでもなくキリンレモンでもない、普通には売っていないメロン・ソーダ。(笑) それにアイスクリームがのっている! まさに夢の飲み物じゃないですか!?

★コロンボを演じたピーターフォークの写真が壁に何枚も飾ってあった『喫茶・コロンボ』はもうすでに閉店してありません。大人になった今では久美浜に海水浴にいくこともなくなりました。それでも彼岸やお盆などで墓参りに久美浜へいくと思い出すのです。子供でありながら『お手伝い』という名目で合法的に火遊びができてワクワクしていた五右衛門風呂の湯沸しと、もう喫茶店に入っても注文することはないであろうクリーム・ソーダの味を。

*――――*――――*――――*

★BAR月読ではランダムではありますが季節を問わず、アイスクリーム・カクテルのご用意をしているときがあります。

★基本的には良いお酒さえ使えば、どんな種類のものでもアイスクリームにかけて食べると美味しいものなのですが、ここでご紹介するのは『アルコールが弱い人でも楽しめる』、『奇抜ではなく飽きのこないもの』を条件に選んでみました。

《チョコレート・アイスとオーガニック・フランボアーズ・リキュール~》


★チョコとベリー系の定番かつ好相性な組み合わせです。アイスクリームの濃厚さに負けないようにリキュールはこだわりの天然無添加フランボアーズを使用。




《レーズンとバニラ・アイス、デザート・シェリーソース》


★バニラアイスに干し葡萄を散らして、濃厚なデザート・タイプの甘口シェリーをカラメル・ソース風に。シェリーの原材料が葡萄ですから風味も干し葡萄とピッタリです。



《夜のクリーム・ソーダ》


★メロン・フィズを作ってアイスクリームをトッピング。味はクリームソーダとそっくりです。近年、メロン・フィズのレシピはやや大人思考でジンを加えることが多いのですが、ここではクラシック・レシピのまま作りました。


★アイスクリーム・カクテル 常に月読にアイスクリームをご用意しているわけではありませんが、持参されればいつでもご要望にお応えいたしますよ。





2012年7月11日水曜日

池と路地と妖(アヤカシ)と

★昨日、奈良市に出かけました。相方(妻)の友人が個展をおこなっているのでそれを見に行くのが目的です。個展の観覧時間は夜の8時までやっているので昼間少し寄り道をして、奈良市に着いたのが午後4時頃でした。七夕の過ぎた7月の空はまだ明るく、梅雨があけたのでは?と思わせる良い天気でした。


★ギャラリーに向かう道すがら、商店街を抜けるとそこは猿沢池があり向こう岸に興福寺の5重塔が見えます。


★この猿沢池には七不思議があるのです。(以下、Wikipediaより抜粋)

1 澄まず
2 濁らず
3 出ず
4 入らず
5 蛙はわかず
6 藻は生えず
7 魚が七分に水三分

猿沢池の水は、決して澄むことなくまたひどく濁ることもない。水が流入する川はなくまた流出する川もないのに、常に一定の水量を保っている。亀はたくさんいるが、なぜか蛙はいない。なぜか藻も生えない。毎年多くの魚が放たれているので増えるいっぽうであるにもかかわらず、魚であふれる様子がない。水より魚の方が多くてもおかしくないような池。

その他、

  • 猿沢池のほとりにある采女神社(うねめじんじゃ)は、帝の寵愛が衰えたことを嘆き悲しんで入水した采女を慰めるために建てられたという。
  • 芥川龍之介の小説「龍」は、猿沢池から雲を呼び雨を降らせながら龍が天に昇ったという伝説を素材にしている。
  • 猿沢池の名前の由来は、インドのヴァイシャーリー国の猴池(びこういけ)から来たものと言われている。猴の字義としては、尾の短い種類のサルをさしている。
  • 奈良県大淀町には、興福寺の僧に恋をした娘おいのが身を投げたといわれる「おいの池」がある。伝説ではおいの池と猿沢池は地中でつながっており、身を投げたおいのの笠が猿沢池に浮かんでいたという。
  • 1959年に、七不思議に反して池の水が赤くなった時には、「この世の終わりだ」と騒がれたという。



  • ★泳ぐ亀を見ながら暫く休憩し目的のギャラリーに向かって猿沢池を後にしたのですが、この時まだ私たちには分かっていませんでした。この後、この地に来たことを痛烈に後悔することになるとは。

    ★この辺は路地が多く、至るところが細く繋がっています。猫も多く見かけます。元来、二人とも裏路地散歩が好きなので勿論、表通りではなく路地に躊躇なく進んでいきます。


    ★少し雲がかかってきたのでしょうか、さっきよりは大分と暗くなってきたように思えます。やはり梅雨はあけてはいないようです。

    ★奈良に限らす路地を散歩していると不思議な気分にさせられます。”そこ”を通り抜けるとどこか異界に繋がっているような怪しい、けれどもそこを通り抜けずには居られないような不思議な感覚。まるで路地の向こうの突き当たりの角から見えない誰かが手招きをしているようです。


    ★路地裏の空間にはいろいろな店が点在しています。途中、私たちが吸い込まれるようにして入った店には不思議なものが天井から吊るされていました。『涙の結晶』、『金平糖の化石』、『薄笑いの道化師』、『木の絡繰人形』、『凍った動物』、そして『錬金の茸』。


    ★この店は2階にあり廊下は屋根を伝ってくる野良猫の通り道になっています。風がよく吹き抜け、その時には店内に吊るされているモノ達が一斉に異界の音楽を奏ではじめます。音に魅せられた私はその中から一本の茸を選んで持って帰ることにしました。月読の軒に吊るすつもりでいます。

    ★さて気まぐれに立ち寄った店を出て、路地裏散策をしているつもりがいよいよ方向があやふやになってきました。ふと立ち止まって立て札をみるとそこには”鬼”の伝承が。


    ~不審ヶ辻子町(ふしんがづしちょう)~
    その昔、夜になると元興寺の鐘楼に鬼が現れ、人に危害を加えるので、道場というお坊さんがこれを退治しようと争い、逃げる鬼の後を追ったが、このあたりで見失ってしまったところから、不審ヶ辻子と呼ぶようになった。

    ★つまりこの辺にはまだ鬼が潜んでいるかもしれないということです・・・ ♪ 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ ♫ 」 ・・・

    ★辺はもうすでに暗く、昼と夜の境目の”魔の刻”です。果たして私たちは異界にいるのやら現実世界の迷子やら・・・かなり歩き回ったので足腰にも疲れが感じられます。まだこれからギャラリーを観覧し、来た道をもどって京都に帰らねばなりません。


    ★どうしたものかと思案していると、さっき買った金属の”茸”がしまい込んだ鞄の中で『カラン・・』と音を鳴らしたような気がしました。ふと向こうを見ると探していたギャラリーがそこに。

    ★這う這うの体でやっと目的のギャラリーにたどり着くと、そこには更に恐ろしい札が貼りつけてあるのが分かり、二人とも顔から血の気が引くのを感じました。
    ・・・入口のドアには凍りつくような字でこう書かれてありました。「本日は定休日」


    ★疲れた足取りで肩を落として京都に帰り、家の手前で缶ビールを買うためにコンビニに寄りました。仕事柄か単に興味本位かは分かりませんが、ビールを買うときは知らない銘柄のものを試し飲みするようにしています。この日もエビスビールを一本選んだあと、隅っこに並べてあった見慣れないビールを手に取ってみると・・・そこには鬼が。


    ★そういえば猿沢池はインドに由来しているのでしたが、不審ヶ辻子町の鬼はインドから流れてきた青鬼であることが判明しました。

    ★京都に帰って安心したのも束の間、まだ異界から抜け出したわけではなかったようです。


    2012年7月10日火曜日

    タマゴ、売切れです。


    ★つい最近、当ブログでチョコレートのリキュールを使ったカクテルを紹介させてもらいました。そのレシピで使っていた”目玉焼き”の形にデザインされていた卵のリキュールが切れたので、いつもの酒屋さんに仕入れに行ったところ、”終賣”(生産終了)とのことです・・・

    ★形やデザインが可愛いので、カウンターの後ろの棚(バック・カウンターといいます)に飾っていると、よくお客様から「あれ、なんですか?」と質問を受けました。会話の取っ掛りになってよかったのですが、無くなってしまうとは残念です。思えば空瓶も人気があって、よく使い切ったときに欲しいとおっしゃるお客様に差し上げて喜ばれました。用途はドレッシングを入れる人が多かったですね。


    ★この卵のリキュールは普通の瓶に詰められたものもあって、総称をアドヴォカートといいます。アドヴォカートはオランダのお酒で(目玉焼きボトルのものは例外的にドイツ産です)、”弁護士”を意味するそうです。これは飲むと弁舌が滑らかになって、よく話ができるようになるという理由からです。

    ★いつだったか、オランダ語を話せるお客様とこの話題になったとき、アドヴォカートは別の意味もあって、それはスラングで”詐欺師”という意味になるらしいです。なるほど、どちらも”口”が勝負の世界ですね。私が仕事中にこのアドヴォカートを飲むことはありませんでしたが、棚に置いているだけでお客様との会話を滑らかにしてくれたので、確かに効果があったのかもしれません。

    ★その功労者の『目玉焼きボトル』にもうすぐ頼れなくなてしまう訳ですが、実は終賣の知らせを聞いてから、いくつかの酒屋さんをまわって3個だけ入手してきました。これだけあれば使い切ってしまう前に販売が再開されるのではないかと密かに期待しています。

    ★個性的でお客様にも人気のあるボトルだし、無くなってほしくないなあ。



    2012年7月9日月曜日

    幸福の味

    ★今日、友人の結婚披露宴に招かれて出かけてきました。

    ★昨日まで雲の中を歩いているような湿度と、降ったりやんだりを繰り返す雨と、これでもかというような雷の音がまるで嘘のように消え去り、新郎新婦が登場する頃には青空にお日様まで顔を出していました。

    ★きっと二人の心がけが良かったのでしょう&集まった人達の普段の行いの良さでしょうか?(笑)


    ★始終、笑い声が会場のあちらこちらで聞こえる、あたたかい披露宴でした。

    ★写真、たくさん撮ってきたのですが、肝心の二人がまだその写真を見ていないので、残念ですがここではご紹介できません。m(_ _)m また機会があればその時に。

    ★今までに何度も友人の結婚披露宴に招かれてきました。もういい歳ですから当たり前といえばそうなのですが、ふと考えてしまいます。あと何回くらい友人の結婚式や披露宴に招かれることがあるのかなあ、と。

    ★今日、乾杯のお酒を飲みながらしみじみ思ったのです。祝福する人、される人が集まって出来上がる『幸せな空間』、そこでいただいて飲むお酒の味は、たとえどんな高価なお酒の味よりも美味しいですね。


    ★BARは”喜怒哀楽”が混在する空間です。それでも今日みたいに幸せな空気の充満する場所を体感すると、月読というBARの空間であっても、怒と哀のない”喜楽”な時間が少しでも多く、長くある場所でありたいなあと思ってしまいます。


    まさやん、とーさん。
    お招きありがとう。いい披露宴でしたね。皆さん、とても楽しそうでした。
    いつまでもオシアワセに!






    2012年7月7日土曜日

    ジントニックは危険な香り

    ★ジントニックというカクテルがあります。BARでは人気のカクテルで、月読でもいちばん注文の多いカクテルです。


    ★ジントニックは単純なレシピ故に、BARによって使うジンの銘柄、トニックウオーターの銘柄、レモンを使うかライムにするのか?はたまたプレーンか?と結構、味が違うものです。

    ★さて今回はジントニックではなく材料のトニックウオーターについてです。トニックウオーターについてご存知ない方がいらっしゃるかもしれませんが、清涼飲料水と思ってください。ちょっと苦味のあるサイダーという感じですかね。

    (1)元々トニックウオーターはキナの皮から抽出されるキニーネがマラリアに効果があることが判明して、熱病対策に作られた飲み物ですが、残念なことに日本においてはこのキニーネが禁止薬物としてトニックウオーターには使われておりません。代わりに人工的なキナ・フレーバーが使われています。

    (2)ところが最近日本でもキナ入りのトニックウオーターが発売されました。『フィーバー・ツリー』というトニックウオーターがそれです。


    ★(1)から(2)に推移した理由が調べても非常に判りづらいのですが、理解できた範囲で簡単にいうと、『日本のある法律ではキナは禁止薬物ですが、別の観点からはセーフだと。そのかわりもしセーフの法を用いるとしても、年々それは減らしていきますよ。』というのが(1)の段階で、よって日本ではいつセーフからアウトに変わるか分からないので生産するのは難しかったのではないかと思われます。もともとトニックウオーターなんて一般生活での消費量も少ないでしょうから。

    ★それが今回、人工添加物や保存料を一切使わないキナ入りのトニック”フィーバー・ツリー”が世界中で人気を博し、日本の法と輸入業者が斥候を重ねて販売に至ったと思われます。ただ、この経緯はネットで検索してもどうも曖昧で今のところ真相は薮の中です。


    ★さて、このフィーバー・ツリー(キナの木の意 写真上)の味ですが、日本でそれまで販売されていたトニックウオーターの味と比較して、明らかに違うと感じた点は意外なことにキナによる苦味ではなくて、ライムのような柑橘の香りが強いということでした。

    ★ともあれ、これで日本でも世界中で飲まれているジントニックと同じものが”表立って”作れることになったのですが、各BARの対応やお客様の反応はどうなのでしょう? 受け入れられていくのかどうか興味深いところです。(コストも従来より高めで、酒屋さんは否定的でしたが(笑))


    ★確かにフィーバー・ツリーを使ったジントニックは新鮮で美味しいと思いますが、私としては旧タイプのジントニックも捨てがたいと思っています。泡のキメ細かさで勝負すればシュエップスのトニックウオーターを使って作ったジントニックの方に軍配が上がる気がしますが・・・う~ん、でも総合得点となるとどうかなあ。


    ★当面、月読では『ジントニック』は2種類のトニックの使い分けしていこうと思っていますが、フィーバー・ツリーがシトラスの香りに特徴があるとすれば、むしろジントニックよりグレープフルーツを使う『スプモーニ』などの方がより和合性があるのかもしれません。このあたりはこれからのお楽しみです。

    ★最後に、フィーバー・ツリーが解禁される以前のキナ入りトニックウオーターがどんなものだったかといいますと・・・これがそうです。(残念ながら缶ですが)


    ★なぜこの”写真”が手元にあるかというと、それはBARの七不思議なのです。
    (注 海外のトニックウオーターを持っているのは違法ではありません。念のため)

    落しもの・・・拾った。

    ★今日、雨があがった一瞬のスキを突いて夕方から仕入れに出かけました。

    ★また降り出すまえに急いで店に帰ってきてシャッターの鍵を開けながら、ふと横をみると道端に青い紙切れが落ちていました。

    ★店の横には自動販売機が設置してあり、ゴミを路上に捨てていく輩がたまにいるので、またそのたぐいかと思い、取り敢えず仕入れた荷物を店内に置き、「やれやれ・・・」と思いながらさっきの紙屑を拾いにいくと、それはゴミなのではなく、とても大切な落し物でした。

    ★それは青い紙に小学生低学年の子供が書いたと思われる可愛い字で、お父さんに感謝の気持ちが綴ってありました。

    ★カードは半分に折り曲げてたたまれており、開くと中から”紫陽花”の花束が飛び出す仕掛けになっています。


    ★とっても大切なこのカード、きっと父の日に子供からお父さんに手渡されたのでしょうね。手紙の文面からは優しいお父さんであることが伺えますが・・・

    ★お父さん、 落としたらあかんやん! (T▽T)

    ★交番に届けるわけにもいかず、かと言って店内に預かるわけにもいかず・・・結局、雨が降っても大丈夫なようにビニールで梱包して月読の入口の階段の脇、看板下に貼り付けて落とし主を待つことにしました。

    ★紫陽花の花が枯れる前に落とし主が現れることを願っています。


    2012年7月6日金曜日

    チョコレートの誘惑

    ★よくケーキなどの洋菓子を食べるときに『本場ヨーロッパの味』という謳い文句を目にすることがあります。概ね”本場の味”は日本人の味覚にとって甘すぎると感じるのは私だけでしょうか?

    ★これはお酒、なかでもリキュールにおいては顕著な傾向です。特にいくつものメーカーから数多く販売されている”チョコレート・リキュール”はそのまま飲むと、駄菓子屋で売っているビニールチューブに入った”飲むチョコレート”のような安っぽい味がします。某有名チョコレート・ブランドのリキュールでさえそう感じてしまいます。(あくまで個人的感想であることをご了承ください)

    ★そんなガッカリなチョコレート・リキュールのなかで、飛び抜けて美味しく感じられるのがこれです。

    ~モーツアルト・ブラックチョコレート・リキュール~


    ★モーツアルト・チョコレート・リキュールのシリーズはノーマル・タイプやホワイト・チョコなど、いくつかのヴァージョンがありますが、スグレモノはこのブラック・チョコレートです。たぶん日本人の味覚としては”ブラック”になって初めて普通の甘さなのです。このあたりの感覚は民族や人種、もしかしたら気候風土の違いによって変わるものなのでしょうが、お酒でこういった違いを感じるのもまた楽しいものです。

    ★さて、このモーツアルト・ブラックチョコレート・リキュールを使ったカクテルをご紹介します。

    まずシェーカーにこのブラック・チョコを注ぎ、次に卵のリキュールを入れます。かわいい瓶ですが紛れも無くお酒です。写真に卵の”赤玉”と”白玉”があるのがお分かりいただけるでしょうか?でも中身は一緒です。赤玉の方が高級なお酒ではありません(笑)



    ★次にミルクを入れシェークをしたらグラスに注ぎ、仕上げにシナモン・シュガーをふりかけて完成です。



    ★このカクテルの名前ですが、創作なのでありません。本来ならオシャレなネーミングを考えるべきなのでしょうが、私は基本的には創作カクテルは作らないので(スタンダード・カクテルのアレンジはします)、今まで自分で名前をつけたカクテルをお客様にお出ししたことがないのです。もしかしたら関西人特有の”テレ”があるのかもしれませんが・・・


    ★因みにこのカクテル、お客様からオーダーをいただいた場合、伝票には品目の欄に”チョコ卵”と書いています。(笑)

    ★梅雨時のジメジメや蒸し暑さで怠けを感じてきたら、疲労回復に甘いものがいいかもしれません。また食後のデザートやアルコールに弱い方にもオススメですし、もちろんチョコレート好きの方にも大丈夫です。

    ★味ですか? お酒の入った『チョコ・マッ〇・シェーク』みたいな感じです。(笑) お酒にしては多少、カロリーが高めですが、チョコレートの誘惑には逆らい難いものがありますね。