30年くらい前、京都木屋町に厭離穢土というジャズ喫茶(バー)があり、当時学生だった僕は初めてこの世界でアルバイトをしました。それから幾つかの違う店で仕事をして、何故か縁あって厭離穢土の最後を看取る形で再びその店に入りました。今度はアルバイトや雇われ店長ではなく、自分の経営として。
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諸々の問題があり、厭離穢土を閉めた後、月読を始める訳ですが、その時、厭離穢土からすべてのレコードとオーディオ機器を譲り受けてきました。写真は厭離穢土の顔でもあった、珍しい壁掛け型スピーカーのジーメンスCoaxial -C72233-A10-A7です。
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と言っても、僕自身はオーディオやジャズ…そもそも音楽に関しての造詣があるわけではないので、これが果たしてどの様なものなのか分かっていません。ただ製品名とコードナンバーをネットで拾っただけです。
月読でこのスピーカーは使いませんでした。レコードも一部人気のあるスタンダードなジャズレコードだけを置いて、殆どは自宅の押入れで眠らせていました。
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旧月読は町屋風の造りだったので周りに音漏れがひどく、裏に小さなお子さんのいる家もあったので音楽を売りにする店にはできなかったし、何より月読を厭離穢土を踏襲した"みたいな店"と認識されるのが嫌だったのです。そうして月読は月読としてのアイデンティティを確立し得たのだと思います。
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今回、新たな月読を作るにあたって、厭離穢土のレコード全部を店に揃えました。スピーカーもジーメンスの壁掛け型の復活です。
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厭離穢土を再現したい訳ではないし(もちろん出来ない)、その備品たちに頼りたい訳でもないのですが、僕はやっぱり今でもあの店が好きだったんだなあ、と常々再認識するし、たぶん歳のせいでノスタルジックな思いが強くなっているせいもあるのでしょうが…それも悪くはないかな。
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月読移転のこの機会に、一度、自分の持っているエレメントを全部だして、それを混ぜ合わせたカクテルのような店を作ってみようと、そう考えたのです。
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ジーメンスの壁掛けスピーカーは、メンテナンスを施しましたが、約50年に渡ってついた埃や煙草のヤニは落とせませんでした。故に決して往年の実力を発揮できる訳ではありませんが、長い年月を経たものだけが出せる音色がそこにあります。
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ぜひ、時の流れの音を聴きにきてください。
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ただ、ジャズだけでなく昭和歌謡もかけますので悪しからず。bar月読ですから。