普段より早めに店に入り、カウンターで氷を使いやすいサイズに割っていた。確か午後3時半頃だったと思う。
入口のシャッターは半分程閉めてあり、身体を屈めないと入れないようになっていた。2階に続く階段の電気も消してあるのでかなり暗い。見知らぬ人が入ってこれる環境ではなかったはずだった…
なのに突然ドアが開いた。
びっくりしてそこを見ると黒人の若い女性が一人で立っていた。
誰かの家と間違えて入ってきたのかと思い、僕は彼女に向かってここはBarだと言った。
すると彼女は「もう営業しているのか?」と尋ねたので、夜の6時から開店すると伝えたら「OK」とだけ言って暗い階段を降りて行った。
観光客のようだったけど女性が一人、それも異国でシャッターを掻い潜って暗い階段から密室に入ることに恐怖はなかったのだろうか?
言葉にするとそれは例えば”安全な国”というような簡単なものになってしまうけれど…
街角に貼ってあるポスターは”取り戻せ! 取り戻せ!”と意気揚々と謳っているけど、いったい何を取り戻すというのだろう。
この国が誇るべきものはもう既に手に入れているというのに。
”星の王子さま”にでてくる狐は言っていた。
「大事なものは目に見えないんだ」
”取り戻そう” 何を? ”手放そう”の間違いじゃないのか。
そう言うと今度はポスターの男に追従する者達から声が返ってくる。
「お前はここだけ安全ならそれでいいのか?!」
まるで無料で配られている薄っぺらな広告入りのティッシュペーパーだ。
ワイドショーで得た詭弁と知識はあっても想像力が欠如している。
その大義は誰が行う?
人より多くの税金を払えば椅子に座っていられるのか?
それともコントローラーのAボタンを連打したら敵を撃破出来ると思ってるのか?
件の島に油をまき散らして更に火をつけた幼稚な作家はその後どうしただろう?
あの島に住み込んで大好きな戦車に乗りながら自分自身で守っているか?
今頃、高級な羽毛布団にくるまってイビキでもかいて寝てるだろう。
じゃあ、命を危険に晒しているのはいったい誰だ?
フィリップ マーロウは「撃ってもいいのは自分が撃たれる覚悟がある奴だけだ」という小説上の名言を遺したけれど、大義を口にするならその覚悟はあるのか?
いや、撃たれる覚悟の方じゃない。そもそも”撃つ”覚悟を持てるのか?
”引き金”を引くか引かないかは想像力にかかっている。思いやりも優しさも想像力がなければ生まれやしない。
昨日、5月4日はオードリーヘプバーンの誕生日だった。
彼女は晩年、あまり映画には出演しなくなって、かわりにユニセフでの活動を活発にしていた。
そこで彼女はこんなことを言っている。
「いつの日にか政治が人道化する日がやってくるでしょう」と。
残念ながら、日出処の國がその最初ではなさそうだ。
もしオードリーヘプバーンというキーワードでカクテルを選ぶなら、ムーンリバーからの連想でブルームーンでどうだろうか?
このカクテル、実は『出来ない相談』という隠された意味がある。実際に青い月が存在しないことや、バラの品種で同名のものがあるのだけれど、実際には青いバラにはならない事から由来する。
さて、ブルームーンをオードリーヘプバーンの誕生日プレゼントにしてもいいのだけれど、今はそれより先にこの『出来ない相談』を100杯くらい作って無理やりにでも飲ませたい人物が一人、いる。
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