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2012年11月10日土曜日

チョコレートの香りのするバー

★昔、チョコレートの香りがするバーがありました。と、いっても本当にそれがチョコの香りだったのかはかなり怪しい話で、その店の一部のお客様やスタッフの間でそう言われていただけです。人によっては”木の香り”だという人もいれば、長年にわたって壁に染み付いたタバコのヤニの臭いだという人もいました。もっとも「タバコのヤニ説」はたった一人だけでしたが。

★このバーの名前は厭離穢土(オンリエド)。徳川家康の旗印にも書かれていた仏教用語で、意味は「現世から逸脱した世界」簡単にいうと天国とか極楽浄土ですね。

★この店は京都の木屋町という繁華街の路地裏におよそ30年続いたジャズのレコードをかけるバーでした。私が(客として)初めてバーという所にいったのもここなら、この店の最後を(経営者として)看取ったのも私でした。かなり不本意な終わり方ではありましたが、まあ、その話はあまり楽しい内容ではないのでここでは止めておきましょう。


★この店、厭離穢土はある意味、今でも私の中で理想のバーなのです。そしてそれはきっとこれからどんなに努力しても届かないであろう”理想”なのだと思います。

★この店は開店時間後、1時間もしないうちにカウンターが埋りました。たった6席ですけどね。でもその後入店されたお客様はカウンターに座れないと分かると、テーブル席でじっとカウンターが空くのを待ちながらチビチビ飲んで過ごすのが常なのです。いやいや、”ゴクゴク”だったか・・・。待ってる間に飲んで、カウンターが空いてから更に飲むのでみんな酔うのですよ、当然ながら。あの頃はみんなよく飲みました。平日なのにボトルはどんどん空いていって、「みんな明日の仕事どうするんだろう?」っていうくらいに。


★で、みんな酔いがまわってくると、”突出し”に出された皿の上のピーナツやらキスチョコやらをポロポロと掴みそこねて足元に落とすわけですよ。で、知らずに踏んずけたりして。でもナッツは後で掃除したら履き取れるのですが、チョコレートの場合、床が木なもんで踏みつけられると継ぎ目に染み込んで取れなくなるのですね。あまりにみんながチョコをポロポロ落として踏み付けるから、どーもこの店の甘い香りは踏みつけられて床に染み込んだチョコの匂いだろうと、誰からともなく言い出したらしいのです。

★そんなこんなで、この店はお客様が毎日、飽きもせず一杯いらっしゃいました。当時、バブル経済真っ最中からその終焉に向かっての十数年、開店後にすぐに万席になる店は多く、特に珍しいものではありませんでした。だから「お客様が多い」=理想の店というわけではありません。

★ただ、この店はお客様に愛さてている度合いがとてつもなく深かったのは確かです。何ででしょうね? スタッフの人格やスキルがずば抜けていたわけでもなく、ジャズ好きなお客様ばかりだったわけでもなく、お酒の品揃えがよかったわけでもありません。それに常連のお客様も決して常に”人格者”だったわけではなく、酔っ払って荒くれ者に豹変する人も多々いましたからね。(笑)


★ただ私も元々、厭離穢土の”お客さん”から始まっているので分かるのですが、『あそこに行くと誰かに会える』というのが最も大きな理由だったのではないかと思います。”店のマスターに”・・・ではなく、”一緒にカウンターに座る誰か”に、です。

★みんながみんな、いい人達ばかりだと思っていたわけではなかったはずです。悪口を言い合ったり、ときには喧嘩もあったし、お互い口もきかない人たちもいました。そんな自分が”好きではない人”たちでさえも、そこに行って会えるのが嬉しい。人の気配が嬉しい。もし今日そこに行かなかったら知らぬ間にどんな楽しいことが起こってるかもしれない。取り敢えず1時間でもいいからそこに寄って顔を出して確認しないと落ち着かない。・・・学生の頃の『部活』のような店。


★当時、ネットやスマホなんていう退屈や寂しさを紛らわせてくれるツールなどなく、その場所に行くことで、たとえ好きではない誰かに会うことでさえ嬉しいと思う。何かしら体温という温もりを与えてくれるような場所。厭離穢土はそういう場所だったように思います。いや、多分あの頃は厭離穢土だけがそうではなく、きっとバーや喫茶店がそういう場所でありえた幸せな時代だったのです。

★だからといって、決して携帯電話やパソコンを否定するつもりはありませんよ。自分もこうして恩恵に預かっていますし、何より”進歩”は受け入れなくてはなりませんから。ただ、あの頃の人が人を求めて集まってくるエネルギーの”熱”のようなものを、時々無性に懐かしくなる時があります。


~ ホットチョコレート・カクテル ~
  • モーツァルト ブラックチョコレート・リキュール
  • アマレット(杏の種子のお酒)
  • ブランデー
  • ミルク&生クリーム

☆小型のミルクパンにチョコレートリキュールとアマレット、ブランデー、牛乳を入れて温めます。


☆沸騰する直前にあらかじめ泡立てておいた生クリームを投入します。


☆よく材料が馴染んだらカップに入れて出来上がり。好みでシナモン・パウダーをふりかけます。



★このカクテルを作るとき、少しの間だけBar月読もチョコレートの香りのするバーになります。

・・・天国の香り、お線香よりもチョコレートの方がいいかな。(笑)






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