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2013年2月19日火曜日

美味しいハイボールの作り方

『おいしい』の仕組みを考える 番外編

~美味しいハイボールの作り方~ Bar月読スタイル

前回ブログでハイボールについてお話しましたが、自宅などでハイボールを作る時のちょっとしたコツなんかをご紹介したいと思います。

前回のブログでは銘柄はタリスカーというシングルモルトにしましたが、ここでは一般家庭用についてなので、ウイスキーの銘柄は”何でもあり”ということにします。

あと氷ですが、本来なら冷蔵庫の製氷機の氷はあまり美味しくないので、コンビニかなんかで、ブロックアイスを購入するのが望ましいのですが、家で軽く飲むのにそんなに時間や手間もかけてはいられないので、製氷機の氷もあり、ということにします。


まず用意するもの。

ウイスキー 氷 マドラー グラス 炭酸ソーダ 小皿



グラスを冷凍庫で1,2分冷やします。

炭酸はあらかじめ冷蔵庫で冷やしておきます。

完成後、氷が溶けて水っぽくなるのを防ぐことが最大のポイントです。


小皿にウイスキーを少量(ティースプーン1杯くらい)垂らし、冷凍庫で冷やし終えたグラスの縁にそれを塗ります。

ソーダで割ることによって薄まったウイスキーの香を補うためです。



次に氷をグラスに入れます。この時、なるべく大きな氷が望ましいのですが、それは大きいほど表面積の割合が小さくなって溶けにくいという理由がひとつと、グラスの内壁と氷の間に隙間が出来やすいというのが理由です。これについては後述します。


写真上 グラスと氷の間に大きな隙間があり、底が見えているのが分かります。





グラスにウイスキーを注ぎます。量は30ml (お好みで40mlでも60mlでもかまいません)


料理用のメジャーカップでも構いません。



ソーダを入れる前にマドラーでウイスキーをステアして(混ぜて)冷やします。

この時、想像力が大事です。冷えたソーダーと同じくらいの温度になるように”想像して”混ぜます。

同じ温度にウイスキーが冷えたと思ったら(あくまで想像で結構です)、混ぜるのを止めます。



この時、最初にグラスの中に氷を入れた時の様にグラスとの間に隙間を作って、底が見えるような部分を残します。(写真下)



ソーダの入っている瓶(ペットボトル)の内容量をあらかじめ減らしておいて、グラスに注ぎ込む量だけを残しておきます。



比率はウイスキー1に対して3から4です。

清涼感重視なら4倍、濃い味が好みなら3倍です。(2倍でもOK)

先程、ウイスキーの量は30ml入れたので4倍なら120mlです。(僕は1:4が好みです)

空瓶に水を120ml入れてみて、どの高さまでがその量なのか、あらかじめ調べておきます。


写真上の量が120mlなので、この量になるまで別の容器に移して減らしておきます。

その後、グラスにソーダを注ぐのですが、この時、底が見えている部分に向かって”グラスの内壁を滑るように”底に流れていく感じで、なるべく泡が立たないように静かに、それでいて強く、ウイスキーとソーダが混ざり合うように落し入れます。


これは完成した時、炭酸ガスがなるべく抜けないようにするためです。

あらかじめソーダの量を調整しておいたのも、一気に流し入れて、その後、ステア(マドラーで混ること)をしなくて済むようにするためです。

つまりソーダを注ぎ終わったら完成で、その後、マドラーは使わない”ノー・ステア”スタイルなのです。


完成(写真上)


さて、例えば夏の蒸暑い日だとか、使うウイスキーが角などの香が脆弱なタイプの場合、完成したハイボールにレモンピールを施すとより美味しくなります。

レモンの皮を軽く削いで、指で折りたたむように軽く潰すと果皮にある油脂が飛んで、ハイボールに柑橘の爽やかな香が付着します。


真上からすると苦味が付いてしまうので、グラスのやや前方から15cmくらい飛ばすような感覚で行うと上手くいきます。



以上、Bar月読スタイル 美味しいハイボールの作り方でした。

家庭ではソーダの余分な量をあらかじめ他の容器に移し入れる作業は手間なので省いてもらっても構いませんが、その代わり、瓶のどの辺までソーダの量が減ったら120ml(入れたい分の量)を入れたことになるのかを把握しておく必要があります。


★ おさらいポイント ★ 

① グラスとソーダをよく冷やす。

② 氷を入れ、ウイスキーを注いだらソーダを入れる前に、まず混ぜてウイスキーをソーダの温度になるように冷やす。

③ ソーダを注ぐときは勢い良く、それでいて静かに注ぎ、”ウイスキーとよく混ぜる”ことと”炭酸ソーダーの泡を抜かない”ことの相反する仕事を同時に行う。




では、家庭でもより美味しいお酒を楽しんでください。
(因みにBar月読では配合比率は1:3でお出ししています。)



2013年2月18日月曜日

『おいしい』の仕組みを考える Ⅷ


 作るのが最も簡単なカクテル

*ーー* 一本の道を照らし出す隠者 *ーー*


 ハイボールが人気を得た理由…

「♪ ウイスキーがお好きでしょ?」…宣伝広告のヒット、でもそれだけではありません。ハイボールが人気の理由、それは最も簡単に美味しく作れるカクテルのひとつだからです。

(簡単というと語弊があるかもしれません。定義上、スイートスポットが簡単に取りやすい、ということです)


★水とソーダ、大した違いがあるようには思えませんが…

作るのが難しいカクテル”水割り”に比べてハイボールが簡単な訳。


1 清涼感を重視するため、水割りよりも配合割合の幅が大きい

大手酒販メーカーや様々なレシピ本、ネット等で記されている配合割合は次の通り。

水割り ウイスキー 1 × 水 2(~3)

ハイボール ウイスキー 1 × 2(~4)

スイートスポットが広いのが分かります。


2 ソーダには味がある

ソーダには塩味、苦味などの水よりも味の複雑性に富む(定義②)、またその味はウイスキーのそれと同じものが多く、和合性(定義③)が強い。


3 薄まった刺激の代替は泡で補う

ソーダの持つ炭酸ガスの刺激がアルコールを薄めて飲み易くなった分の刺激を補うので、アルコール度数に弱い人ばかりでなく、普段、ウイスキーをストレート、ロック等で飲んでいるような人が、たまに清涼感を求めて飲んでも刺激の物足りなさを感じなくて済む。


4 水の致命的な弱点がソーダにはない

もちろんソーダで割るということはウイスキーをストレートやトゥワイスアップで飲むときよりも香は弱まります。ただ、全ての香が弱くなるわけではないのです。ここがハイボールを作るのが簡単なわりに美味しく飲める最大の秘密なのです。


   ソーダの最も面白い特徴

ウイスキーには複雑多種な香が混在していて、それがウイスキーの最大の醍醐味でもあります。

では、その多種多様なウイスキーの香の中で、”そのウイスキーの最も特徴的な香”をひとつだけ嗅ぎわけろ、と言われるとかなり難しいはずです。
「虹をみて最も特徴的な色は何か?」というようなものです。

ソーダで割るということはその対象となるウイスキーの香の殆どを抑えてしまいますが、その代わり、どれかひとつだけ、そのウイスキーの最も特徴的な香を突出して引き伸ばす特性があるのです。(個人的見解です)
このソーダによって引き出されたウイスキーの中にある、ひとつの特徴的な香は面白いことにストレートやトゥワイスアップで飲む時に感じるその香よりも、格段に判り易く現れます。


★ソーダには逆説的な利用価値が・・・

この事が何を意味するかといいますと、本来、水割りやハイボールにシングルモルトを使うのは勿体ないというのが定説ですが、(シングルモルトは“強烈な個性の香”を持ったの飲物であり、その楽しみを打ち消す、つまり香を損なう飲み方をするのは勿体ないということです)ソーダで割ることによって起こる、最も特徴的な香の突出性を考えた時、「ソーダ割りにはシングルモルト程、面白い」と言えるのではないでしょうか?

最も特徴的な香を浮き上がらせ、ストレートとハイボール、違う種類のシングルモルトモルト同士を飲み比べるのはとても興味深く、まるでミステリーを読んでいるような楽しさでもあります。




★最も美味しいハイボール

水割りの所では作り方の工夫にこだわりましたが、ハイボールでは作り方は定義上、簡単だと決めつけましたので、”ハイボールに合うもっとも美味しい銘柄”を独断で決めたいと思います。(銘柄は月読に常設してあるスタンダードなシングルモルトからの選択)

ソーダのもつ塩味、苦味の和合性を考えると、ある程度のクセがあり、塩味を感じられる銘柄。それと全体的に薄まる分、骨格の強いウイスキーがベストと考えました。

その結果、選んだのがタリスカーという銘柄。


ハイボールを作ってみて、(配合比は1:3)大当り。

かなり美味しく出来たのでこれでいいかと思ったのですが、とあるBarのスタッフからある残念な情報を聞きました。それは関東の方でタリスカー・ハイボールが流行りつつあるらしいのです。日本の輸入代理店がネットなんかでキャンペーンをして、巷に広がっているみたいです。(詳細は不明)

流行りの”後追い”的なコトはしたくないので、タリスカー以外のウイスキーをもう一度探し直さなければ…と一旦リセット。


ところが、月読にある全種類のスタンダード・モルト(15種)でハイボールを作ってみたのですが、(自分の好みとして)タリスカー以上のハイボールは見当たりませんでした。かなり面白い銘柄も幾つかあったのですが、タリスカーはソーダのもつ『最も特徴的な香を引き出す』という特性にいちばん和合するのです。

その引き出されたタリスカーの香は他のモルトにはみられない、かなり面白いものです。
ウイスキーの香はシトラス、南国フルーツ、白い花、バニラ、チョコレート、コーヒー、ナッツ、シナモン、ヨードなど色々なものに例えられますが、ソーダによって強調して引き出されたタリスカーの香は他のウイスキーには殆んど類を見ない『瓜系フルーツ』、つまりスイカやメロンのようなちょっと青臭い二アンスでした。そしてこの香はハイボールを作って時間が経っても、殆んどその香を損なわずに在るのです。

何度もこのハイボールを作って飲んでいますが飽きないですね、今のところ…。



よって月読版、最も美味しいハイボールは『タリスカー・ハイボール』に決定します。
もう既に流行っているというのがかなりシャクですがね。



2013年2月10日日曜日

営業時間 変更のお知らせ


★本日、2013 2月10日(日)は営業開始時刻を21時よりとさせて頂きます。

ご迷惑をおかけ致しますがご了承ください。

Bar 月読 店主

2013年2月6日水曜日

『おいしい』の仕組みを考える Ⅶ

☆作るのが最も難しいカクテルは何だろう?


*ーー* 難攻不落のカクテルを攻略する *ーー*



★美味しい水割りへのアプローチ

”美味しい水割りの作り方”はネットで検索すると数多く出てきます。混ぜ方とか冷やし方とかのコツ、作り方の手順なんかです。

ここではそれは割愛して、定義に基づいたBar月読独自の美味しい水割りの作り方をご紹介したいと思います。

・・・美味しくなかったらゴメンナサイ(笑)




★ウイスキーを選ぶ、その条件・・・
  1. 加水することで香がなくなるのなら、出来るだけ強い香りのもの。
  2. 1:2で苦味がピークになるなら、1:3まで伸ばす。もともとアルコール刺激に弱い人達のためのカクテルであることを考えればギリギリの線まで度数は落とす。
  3. なるべく加水によって現れる苦味が少ない銘柄を探す。
この辺でまずウイスキーはシングルモルトになるのかな? という予感。


★そこがいちばんの考えどころ・・・

甘味はある、味の複雑性は前提として無条件に損なわれる、ただ香の複雑性は何とかしたい。

・・・少し整理して考えてみましょう。
  1. 水割りはカクテルである。
  2. カクテルであるならば欲しい味や香りを別材料で補充する事が可能である。
  3. 例えばマティーニがレモンピールを絞ってレモンの風味を付けるように。
  4. 例えばマルガリータのグラスの縁に塩が付くように。
  5. モルトウイスキーの香は2種類に大別される。ピート(草の化石の燻蒸香)と樽香(熟成時)
  6. このどちらかを補充出来ないか?
  7. 上記2種を水割りにトッピングするのなら原酒を数滴をフロート(完成した水割りに垂らす)する方法もある。
  8. ただ、表層だけとはいえ、”弱い人のためのカクテル”に刺激が増えることは望ましくない。
  9. ならばマルガリータの塩のようにグラスの縁に原酒を塗るのはどうか?


★かなり良いセンいってると思ったのですが・・・

グラスの縁に水割りに使ったウイスキーを塗る。

「これはいいんじゃないか?!」

まずは作った水割りのグラスの縁にその水割りに使ったウイスキーを塗ってみました。

・・・残念ながらちょっと物足りない。

水割りを美味しく作るためにはグラスが冷えていないと加水した時に温度が上がり、結果、氷の溶けるのが早く、配合比が崩れてしまいます。

香は冷たいと立たないので、冷えたグラスの縁に塗っても、繊細なウイスキーの香では負けてしまって、それほど効果が感じられませんでした。



★もう一段、発想の転換が必要・・・

ではウイスキーそのものではなく、別のものでは?

ウイスキーの香は大別して2種。まさかピート(まあ、草というか泥です)を塗る訳にもいきませんから、そうするとウイスキーの樽に使っている、それに元々入っていた何かの酒になってきます。

数種類ある樽香のうち、最もよく使われて、香の主張が強いものは何か!?

それはシェリーに他ならない。(シェリー酒の空樽がウイスキーの熟成によく使われて、その結果、シェリーの香がウイスキーに染み付きます)



シェリーにも種類があるので、そのウイスキーに使われている種と同じものが良いかとも考えたのですが、検証したところ意外にも甘口のタイプのシェリーは香が立ち上がりにくいようです。

結果、アモンティリャードタイプのシェリーがベスト・マッチ!!



★月読版 美味しい水割りのレシピ
  1. 加水になるべく負けない複雑性のあるシングルモルト
  2. シェリー樽熟成のタイプ
  3. 汎用性のある銘柄
  4. その中で加水して最も苦味が出ない銘柄
以上の条件を満たす銘柄はBar月読においては『グレンフィディック 18年』でした。
(18年のビンテージはスタンダードの12年ものより高価になってしまいますが、シェリーの熟成香が強いことと、フィディック自体が大量生産していて他の例えばマッカランなどに比べるとかなり安価で手に入ることから決定)



























手順

①グラスを軽く冷やす。

②グラスの縁にアモンティリャードを塗る


















③氷をグラスに入れる

④30mlのグレンフィディック18年をグラスに注ぐ

⑤数回ステア(まぜる)してウイスキーを冷やす

⑥水90ml強を注ぐ

⑦上下共に数回ステアしてミスティーカーテン(霜でグラスの表面が覆われる)を作る

⑧完成



勿論、好みは千差万別で人それぞれですが、今のところ僕はこの水割りがいちばん気に入っています。



☆次回は『作るのが最も簡単なカクテルは何だろう?』というテーマです。

これも定義に則って考えていきたいと思います。







『おいしい』の仕組みを考える Ⅵ

☆作るのが最も難しいカクテルは何だろう?

*ーー* 優しすぎたアクエリアス (後) *ーー*


『水割り』の続きです。

★不可思議なスイートスポット・・・

1:1の比率を超えた水割りのスイートスポットは本当に存在しないのでしょうか?

ウイスキーに少しずつ加水して味を確かめます。

因みに”水割りの美味しい作り方”を本やネットで調べてみると、だいたいウイスキー1に対して水は2~3が良いとされています。殆んどは1:2が主流ですが。

そこで、1:1 1:2 1:3 1:4の配合で加水して味を確認しました。(因みに私はウイスキーをストレートで美味しく飲めます。つまり刺激の耐性はあります)

面白いことに水割り配合比が1:4でも”甘い”のですね。どうしてだか分かりますか?

これはおおよそ1:3を超えた辺りで、ウイスキーに加水しているのではなく、水にウイスキーを足して”水の甘さをウイスキーが引き出している(+ウイスキーの甘さ)という逆転現象が起こるからです。

加水の分量を増やしていく過程で、”美味しいウイスキー”から”美味しい水”に変わるのです。
そこまで行くと流石に酒とは言い難いのですが、加水量が1:1を超えても取り敢えず”甘さ”は存在するし、急速に劣ることはないようです。

(前)のBでも触れたようにウイスキーは瓶詰めされた段階でもうすでに加水されています。つまりウイスキーと水は定義③の和合性を持ち合わせています。その結果、甘味というスイートスポットは結構、幅広く取れるのです。

これが様々なレシピ本の配合比が1:2~3という曖昧なものにしている理由です。



★水割りの欠点・・・

しかしながら決定的な欠陥があります。

水には定義②の複雑性がないので、本来、複雑性に素晴らしく富んだウイスキーの味(香)を1:1を超えたところから急激に薄めていくことになります。

この味覚としての複雑性が薄れることは防ぎようがなく、水割りを作る上でアルコール刺激のない人が飲みやすくするための不可抗力として受け入れなければなりません。

よく美味しい水割りを飲んで「香も立っている!(水割りなのに)」とのコメントがあったりしますが、あくまでも”水割りにしては”であり、トゥワイスアップと同等に香が立つ水割りは存在しません。





★水割りの基本レシピ 1:2は本当に美味しいか・・・?

大手のウイスキーメーカーが推奨しているこのレシピ。喧嘩を売る訳ではないのですが、どうも個人的には強すぎるきらいがあります。

実際、何人かの市井のバーテンダーに尋ねてみたところ、概ね「自分としてはちょっと強い(アルコール度数)と思う」との答えでした。

メディアなどに載っている著名なバーマンが作る、超美味しい水割りのレシピは殆んど1:2で作られているようです。私はそれを飲んだことがありませんし、殆どの人がそうでしょう。

どんなに超美味しいモノがあったとしても汎用性がないものを一般的な話としてする訳にはいきません。それを目指さなければならないのは確かですが・・・


さて1:2がどうして美味しく思えないかという理由ですが、1:1の比率でピークを迎えたウイスキーが更に加水され1:2の辺に差しかかったとき、刺激が減り、味、香の複雑性が落ちていきます。その中で甘味は多少、まだ増幅傾向にあります。

この時、ウイスキーの味の中で甘味以外に増幅されるものがもうひとつあります。

それは『苦味』です。

1:2周辺の最も増幅された苦味は刺激好きな人同様に、ある人たちには心地よさに繋がりますが、苦味を苦痛に感じる人もまた多くいます。



★美味しい水割りの条件とは・・・

1 1:1以上に加水しても甘さはあります。

2 味としての複雑さは必ず失います。

ということは、1、2を踏まえた上で、より香を残し且つ、苦味を感じさせない水割りが美味しいという事になります。

マティーニは総合的なスイートスポットから外れた中に微かな甘味を探し出す、バーテンダーとお客様が相互理解した上でのゲームでしたが、水割りは総合的なスイートスポットから外れたレシピの中に、如何にして苦味を抑え、香を残せるかという、バーテンダーだけの苦行が存在するカクテルなのです。

・・・水商売とはよく言ったものでしょ?(笑)





『おいしい』の仕組みを考える Ⅴ

☆作るのが最も難しいカクテルは何だろう?

*ーー* 優しすぎたアクエリアス (前) *ーー*


★物事に裏と表、陰と陽があるように・・・

難しいカクテルといわれるマティーニはアルコールの刺激に慣れ、ますますそれを求めた人達が、スイートスポットから大きく外れた中に僅かな甘味(旨味)を、バーテンダーは作り出し、それを飲むお客様はそれを探し出すという、ある意味で知的で哲学的でもある、大人の王様(マティーニ)ゲームでした。

マティーニが刺激の強さを求めた人達が創り出したゲームであるなら、また逆も存在するのです。

つまり、アルコール(蒸留酒)の強さに対応できないで、より刺激の弱さを求めたカクテル。

そのカクテルの名前は『水割り』(ここではウイスキーに限定します)




★よく勘違いされていますが・・・

水割りは日本固有ではなく、もともと日本にウイスキー文化がなかった頃から欧州で飲まれていました。それは小説にも数多くみられるシーンです。

それらの小説などの状況や会話の前後からすると、水割りは決して日本人だけがアルコールに弱いから飲んでいる訳ではなく、彼等(外国人)もまた”蒸留酒の刺激が強すぎる”故に水で薄めて飲んでいたという事実です。ただ違うのはおそらくその飲酒人口における水割りを好む割合が日本人は多いということだけなようです。


★『水割り』の前に必ず押さえておかなければならないポイント・・・

A ウイスキーは樽から出した段階でアルコール度数は60度弱ほどあります。(30年以上長期熟成させた高級ウイスキーの中には樽の中で熟成中に自然に度数が50度以下に下がることもあります)

B 瓶詰めする前に加水して40度程にアルコール度数を下げます。ここで大事なのは”この度数が最も美味しいからではない”ということです。理由は当初、「ただ何となく人間が飲むならこのくらいが妥当だろう」といういい加減なものでした。

もうすでにこの時点で水割りだと言えなくもありません(笑)

C 人間の味覚ではアルコール度数40度を超えるようなものは”正確に判別できない”という事実があります。現にウイスキーを造ったりブレンドしたりしている職人たちも、ウイスキーをテイスティングするときは必ず20度に加水したものを使って行います。

D 『トゥワイスアップ』という飲み方があります。ウイスキーを2倍に加水して薄め、約20度のアルコール度数に落とします。テイスティング・グラスもしくはノージング・グラスと呼ばれる小さいワイングラスのようなものを使います。トゥワイスアップは香、味を確かめるのに最も優れた飲み方とされていますが、これはウイスキーのポテンシャルがアルコール度数、20度くらい(下回ることはない)が最も本領を発揮できることが解っているからです。


E トゥワイスアップに氷は入れません。”冷える”ということは香が立つのを妨げるからです。

F トゥワイスアップは水割りの一種ですが、ここでは氷の入った、ウイスキーの同量以上に加水されたものを『水割り』と呼び、トゥワイスアップとは区別します。

G ここでは例外的な話ですが、ウイスキーによっては20度まで落とすと美味しくなくなるものも存在します。水を一滴だけ垂らすのがベストなものや、ストレートで味わうのが最も美味しく感じるものもあります。それらを含めた上でウイスキーの加水量は詰まるところウイスキーと同量以下が良いと定義されています。これはこのブログで勝手に作っている”美味しさの定義”とは違い、世界共通のものなのです。




★理不尽なレシピ・・・

さて大問題です。トゥワイスアップがウイスキーの味を楽しむ最も優れた配合なら、そのアルコール度数の刺激に耐えられない(美味しく感じない)人たちの水割りのレシピは加水をどんな分量にしても最初からもうすでに”美味しくない”ことが約束されていることになります。

こうなってくると水割りはただ単にストレートやトゥワイスアップ、もしくはオンザロックが強すぎて飲めないから、この方がマシというだけになってしまいます。



次回、問題を解決していきます。



ちょっと余談ですがBで加水された水や元々の仕込み水。これを使って水割り(トゥワイスアップ
を含む)を作ると美味しいとされています。


これは美味しさの定義③の和合性に当てはまります。

水に含まれるミネラル分が同じだから相性が良いのですね。

実際、大きな酒屋さんに行くと、スコットランドの水が売られていることもあります。


ただ一般的ではないので、家庭で水割りを作る場合、より軟水を使う方が美味しくできると思っていれば間違いない筈です。(稀に硬水で仕込まれるウイスキーも存在します)





2013年2月4日月曜日

『おいしい』の仕組みを考える Ⅳ

☆作るのが最も難しいカクテルは何だろう?

*ーー* 気難しい王様 *ーー*


★Barでお客様からよく聞かれる質問・・・

そのうちのひとつは間違いなくこれです。

「いちばん難しいカクテルは何ですか?」

今回はこのテーマを考えたいと思うのですが、この件に関しては無論、答えが主観的になって回答する人が違えば答えも違ってくるはずです。

”何となく”か”たぶん”という答えでも駄目なので、これまでに書いてきた”おいしさの定義”に則って考えていきたいと思います。そうすればある程度は客観性があり、納得できる答えに行き着くはずですから。




★高度なカクテルの代名詞・・・

まずは世界で最も有名なカクテルを検証してみましょう。
おそらく誰もが一度は耳にしたことがあるマティーニというカクテルを。


このカクテル、レシピだけで一冊の本が刊行されているくらい色々な作り方があります。
レシピ自体は単純でジンとベルモット(ハーブを漬け込んだ白ワインのリキュールと考えてください)だけ。

その他にはオリーブをカクテルピンに刺してグラスに飾ったり、”ビターズ”という、これもまた薬草系のるキュールをほんの一滴だけ落としたり、あと完成してからレモンピールを絞って微かにレモンの香り付けを行なったりします。

シェークはしません。
007のジェームスボンドなら別ですが・・・

ミキシンググラスというもので混ぜてからカクテルグラスに注いで完成です。

たった2種類の主材料をもとに100のレシピがあるといわれています。

有名バーマンは日夜これを研究し、お客様からマティーニの注文を受けると全神経を研ぎ澄ましてこれを作ります。

哲学的な世界です。美味しく作るには高度なテクニックが必要であると言われています。

ただ僕にはこの領域に達していないので(おそらく今後もずっと)、ココを語ることは出来ません。よって違うアプローチで考えます。


★定義上、不味く作ることの方が困難なカクテル・・・

まず、定義②の複雑性と③の和合性を考えます。

ジンはジュニパーベリー、コリアンダー、キャラウェイ、アンジェリカ、レモンやオレンジの果皮、シナモン、ジンジャーなどのハーブを使って香付けされています。(各社企業秘密である場合が殆どです)

ベルモットもまた白ワインをベースに様々なハーブが漬け込まれており、ジンと重複するものも少なくありません。

そしてジンはドライ(辛口)であり、ベルモットは甘口の部類に入ります。

このことからジンとベルモットは定義②③を殆んど完璧に満たしているといえます。



この好相性の二つの材料、余程どちらかの材料を極端に多くする、もしくは少なくするということがない限り、”不味く作ることの方が難しい”と言えるような相思相愛カップルなのです!!

なのにどうして”作るのが難しい高度なテクニックを要するカクテル”なのでしょう?



★パンチ・ドランカーの悲劇・・・

謎を解く答えはやはり定義①のスイートスポットにあります。

もともと、マティーニが世に出た時代はレシピがジンとイタリアン・ベルモットだったという説があります。イタリアン・ベルモットは今現在、マティーニに使われているフレンチ・ベルモット(ドライベルモット)より数段甘い褐色のベルモットです。(フレンチ・ベルモットは透明)

そればかりではなく、現在、カクテルブックにはレシピ上、ジンに対するベルモットの割合が5:1と書かれていることが多いようですが、実際にBarで作られているマティーニはもっとジンの割合が多くなっています。いわゆる『ドライ・マティーニ』というやつです。

J・ボンドも松田優作もカッコよく「マティーニ、ドライで!!」って言ってますよね。

因みにジンのアルコール度数は50度弱もあります。一般的なウイスキーより遥かに強い度数です。

ところが、昔のマティーニのレシピは1:1くらいだったと言われています。

ということは本来、マティーニのスイートスポットはその辺にある筈なのです。

ジンとベルモットの相性の良さからいって、超甘口派は1:1、辛口派は3:1くらいがおおよそのマティーニのスイートスポットで、他のカクテルのバランスよりもかなり広域にわたってスイートスポットが存在します。これは好相性の材料同士がもつ優位な特性です。

(ただ個人的には3:1かなと思います。これは他のカクテルに多く見られる黄金配合比率のひとつなのです)


こう考えるとマティーニは定義上、美味しく作るのは簡単なカクテルになってしまいます。それを難しくしてしまったのは、『おいしいを考える Ⅲ』で述べた”辛さは美味しいを凌駕する”という事が大きな理由だと思われます。

以下、順を追って考えます。

1 マティーニ(1:1)が広まる

2 非常に相性がいい組み合わせのカクテルなので、当然、人気が出る

3 多くの人に飲まれ続けているとアルコール度数の辛さ(刺激)に慣れてくる人が出現する

4 ウイスキーを水割りからロック、そしてストレートに移行していく人がいるように、激辛カレーを好きな人が、どんどん辛さに慣れて物足りなくなっていくのと同様に、マティーニもまたどんどんと辛口化の一途をたどる。

5 そしてついに刺激が甘味(旨味)をこえて求められるようになる。

6 バーテンダーはスイートスポットを遥かに過ぎ去った配合の中で、それでも少量のベルモットを効果的に使って何とか甘味(旨味)を引き出そうと切磋琢磨する。

7 お客様も同様に、刺激というアルコール度数に慣れてしまった味覚で、スイートスポット外の領域の中、アルコールのパンチを掻い潜って一粒の甘味をマティーニの中に、もしくはバーテンダーの”ウデ”の中に探そうとする。

これがマティーニを他のカクテルとは一線を画し、哲学的な世界を作り出している要因ではないかと推理した結論です。



マティーニは『カクテルの王様』と言われています。

いつの世も、王様に仕えるのは難しいようです。



☆さて、実はもうひとつ有名なカクテルで作るのが”定義上”難しいカクテルが存在します。

そのカクテルもマティーニに負けず劣らず、とても理不尽なレシピから成り立っていますが、こちらは最初から現在までスイートスポットの存在しない不思議なカクテルです。

少々長くなってしまいましたので、そのカクテルの話は次回にします。