それはたった一本だけの羽根なのだ。
”片翼”などという、ある種のカタルシスをともなった格好のいい存在ではなく、文字通りたった一本だけの”羽根”。不細工この上なく、もちろんなんの役にもたちはしない。
普段は、その存在をまったく忘れてしまっている。たまに、ほんとうにたまにだけ、その存在を思い出すことがある。
それはシャツを着替えているとき、背中に何かが引っかかるような感じで。ときにはシャワーを浴びながら背中を洗っていて、不意に雷が落ちたように手に触れてしまったりするのだ。
そんなとき、僕はどうしていいのか戸惑ってしまい、それを思い出してしまったことをひどく後悔する。それはデートに浮かれて、ついうっかり観覧車に乗ってしまい、最上部まで来てしまった高所恐怖症の人のように。
忘れてさえいれば、気がつきさえしなければ、なんてことはないのだ。
ただその一本の羽根に希望を託すにはあまりにも重く、絶望するにも中途半端で満ち足りてはいない。
パンドラが最後に箱から出したものが、もしかしたらもっとも罪深きものだったのではなかろうかと、今日も懐かしい空を見上げている。
カクテル FALLEN ANGEL(堕天使)
80%がジンという悪魔的レシピの中に、数滴だけレモン&ミントリキュールという爽やかな天使の要素を含む。このカクテルの作り手はなかなかのシニカリストなのだ。
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