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2012年7月19日木曜日

ピスタチオのオマジナイ

★ピスタチオ、知っていますか? BARのオツマミでよく出されるナッツです。最近はピスタチオのアイスクリームとかもありますね。


★ピスタチオは殻に入っていて、手で割ってから中身を取り出して食べるローストされたナッツなのですが、以前働いていた店で酔っ払うと殻だけ口に放り込んでバリバリと音を立てながら食べ、中身はピスタチオが盛られていた皿に返すという強者がいらっしゃいました。


★今回、その方とは別にもうひと方、ピスタチオにまつわるエピソードがあるのでご紹介したいと思います。もう30年以上前のお話なので時効ですよね。(笑)

★私が初めてBARでアルバイトをしたときの出来事です。その頃、1年間くらいホールまわりの仕事をして、やっとカウンターに入って接客をさせてもらいました。私は学生でお客様はすべて年上の方ですから、もちろん上手に話し相手が務まるはずもありません。

★そんな中、ある一人の男性は私に気軽に声をかけて話をしてくれました。年齢は30代で確か広告代理店に勤務していたと記憶しています。ちょっとインテリ風な会話で、でもよく笑われるスマートなお客様でした。

★あるとき、その人がグレンリベットというシングルモルトを飲みながらピスタチオをオツマミに食べておられました。その人曰く、「グレンリベットのラベルは飾りがなくシンプルで潔い。攻撃的なイメージがあるので好きなんです」とよく言っておられました。

(写真上のグレンリベットのラベルは現在のものです。30年前はもっとシンプルだったのです)

★その人は学生である私にも敬語を使って話してくださる紳士な方でした。『攻撃的』なのが好きなのは多分、広告代理店という職業柄でしょうか。時はバブル経済の真っ只中でイケイケの時代でしたからね。

★グレンリベットなどのシングルモルトは当時、BARでも珍しい少数派のウイスキーでした。。それでもその男性はいつも飲んでいたのでやはりスマートだったのでしょう。オツマミのピスタチオも人気のナッツです。よく見かける光景でおかしくはありません。でもなにか変なのです。

★その人はピスタチオの中身を食べたあと、殻を再び合わせては元の形に戻して、カウンターの上に並べていました。


★私が不思議そうに見ていると、その人はあまり元気のない、およそ攻撃的とは無縁の意気消沈した声でポツリ、ポツリと話してくれました。

「ピスタチオの殻をね、中身を抜いてこうやって合わせて元の形にするんですよ」

「そうするとね、カウンターの上に置いて手を離しても形が崩れないピスタチオがたまにあるんですよ・・・なかなかできないのですけどね」

「この中身のない、殻だけのピスタチオで輪をつくるんです」

「綺麗に繋がった輪を作ることができると願い事が叶うのですが、輪が大きければ大きいほど叶う願いも大きくなるんですよ」

「・・・いや実は先週、彼女に結婚を申し込んだのですが、あまり思わしくなくてねえ・・・」

「返事が”Yes”ならこの店に来てくれることになってるのです」

★待ち合わせの時間はかなり過ぎているようでした。それでもMr.スマートはピスタチオの皿をおかわりし続けて、着実に殻の輪を大きくしていきました。


★『ピスタチオの殻の輪』伝説。BARにはこんなゲームが数多く伝わっています。

★時には、退屈しのぎのお遊びで。

★時には、まやかしと知りながらも何かにすがりたい一心で。



★さて、Mr.スマートのその後。結局、彼女は店に現れることはありませんでした。彼女を待ち続け、どんどん円周を広げていった殻のピスタチオの輪は、最後まで一度も端と端が繋がることはありませんでした。

★ピスタチオを食べすぎた彼は、ついに鼻血をだしてドクターストップ。哀しい結末です。現実は映画やドラマのようにはいきません。それでも私は今なお、Mr.スマートのことをカッコいいと思っています。

★この回を読んで頂いた方、願い事はありませんか? その願い事はどのくらいの大きさですかねぇ? 『ピスタチオの輪』、つくってみます? 



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