SINCE 2004
京都の繁華街から外れた場所。
ジャズレコード、蓄音機、シーメンスのスピーカー、ビリヤード台、昭和歌謡、古書…シングルモルトをはじめとする蒸留酒とスタンダード・カクテル。
外の世界とは少しだけ時間の流れが違う場所。
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2012年7月20日金曜日
ふたつのサービス
★『バーテンダーズ マニュアル』という本があるのです。何度も改訂版が発行されていて、おそらくどのBARにも必ず置いてある1冊です。
★カクテルのレシピなんかも少しは載っているのですが、内容の多くはバーテンダーやBARという営業店のサービス・マニュアルとお酒の基礎知識や歴史などについてが殆どです。
★つまり一般の人が読んでもあまり面白い本ではないのですが、それなのにもう何版もでているのですから、いかに多くの店やバーテンダーが買ってるかが分かると思います。
★さて、この『バーテンダーズ・マニュアル』にも書かれているように、飲食店におけるサービスはマニュアル化されていることが多いのですが、それができるサービスを『見えるサービス』、できないサービスを『見えないサービス』と個人的に分けて考えています。
★『見えるサービス』はたとえば「いらっしゃいませ」と挨拶をするとか、タバコの吸い殻は2本で新しい灰皿に変えるとか、ボトル・キープのお客様が飲んでいる水割りのグラスの量が半分を切ったら新しく作り足すとか。(スナックやクラブ的な例ですね(笑))
★でも、本当はこれらのことだってお客様の個々の好みがあるはずなのです。吸い殻が灰皿にたくさん溜まるのが好きな人だっています。
★ボトル・キープの水割り、グラスに完全になくなってから新しく作ってほしい人もいます。
★個々のお客様の好みは何度もそのお客様と接してるうちに少しずつ分かってきますが、初めてのお客様でも”視線” ”瞳孔” ”表情” ”躰の向き” ”手の動き”、あとは状況判断などである程度の方向付けは可能です。
★それらに細心の注意を払って臨機応変に行うのが『見えないサービス』です。お客様にはわからないけれど、でも店を出るときに『なぜか居心地がよかったな』と思っていただけるサービス、これとマニュアル化できる『見えるサービス』をうまく使い分けるのが理想のサービスだと思っています。
★では『見えないサービス』の一例を。
★数年前、『コーヒー&シガレッツ』という映画が上映されました。何篇かのオムニバス形式でモノクロの映画です。タバコとコーヒーのある風景の中でされる会話を切り取ったものですが、ありふれた景色の中に喜怒哀楽が盛り込まれている秀作でした。
★さて、年配のご常連様がこの映画を観てから月読に飲みにいらっしゃいました。珍しく奥様もご同伴です。奥様曰く「主人に映画に連れて行ってもらえるのはいつ以来かしら(笑) その上、BARにまで飲みに連れてきてくれるなんて!」
★ひとしきり映画の回想をご夫婦で話されながら、ご主人はバーボンのオンザロック、奥様は軽い水割りを飲まれていました。
★話がひと段落したとき奥様がおっしゃいました。「私たちは以前は二人ともタバコを吸っていたのですよ。健康のためにやめたのだけど、煙草の映画を観たら久しぶりに一本くらい吸ってみたくなったわねえ」と。
★「あいにく月読にはタバコを置いていないのですが、以前にお客様が忘れていったタバコがあるのでそれを吸われますか? 大丈夫ですよ、その方はよく知っているのであとで新しく買って渡しておきますから」と私。
★こうしてその年配のご夫婦は久しぶりのデートで久しぶりのタバコを吸われることになったのですが、さてここでは灰皿がいちばん大事なポイントになるのです。
★『見えるサービス』のマニュアルなら灰皿は各自一皿ずつです。そうすると下記の写真のような図になります。
★これだと普通のカウンターの間取りですね。でもこの場面では久しぶりにご主人とデートした奥様をもっと喜ばして差し上げたいのです。そのためにマニュアルは無視して『見えないサービス』を行います。つまり灰皿をわざとひとつだけしか出さずにご夫婦の真ん中に置きます。すると、こうなります。
★灰皿が真ん中にあることでお二人の距離が縮まり、肩を寄せ合ってタバコを吸うことになります。このことで奥様がどう思われたかは実際にはわかりませんが、バーテンダーのサービスは常にこういったことを考えながら、見えないところで行われています。
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