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2015年7月27日月曜日

川越旅

友人に川越を案内してもらってちょっと遅めのお昼ごはん、美味い蕎麦にありつく。



蕎麦の本場はなんと言っても東だ。「関西から来た客人はこれだから分かってないねぇ、蕎麦の食べ方がよぉ」などとバカにされる訳にはいかない。よって席に座っていきなり最初から蕎麦を注文するなどという無粋な真似はしてはいけない。

仕方がない、まずは酒とアテを頼むより他はない。我々の所作如何によって関西人の沽券がかかっている。したがってここは基本に忠実にいかねばならないのだ。



暑かったのでまずは地元のビール、それとオススメの油揚げステーキと郷土料理のこづゆ、あとは青豆豆腐の冷奴を注文した。蕎麦は一杯ひっかけた後だ。

そんなこんなで時間は過ぎ、アテは無くなって行った。そして〆の蕎麦を注文し、出されるのを待つ間に残っている青豆豆腐を箸で突きながら諺について考えていた。



ソクラテスやプラトンもきっとこんな時間帯に自己問答していたはずだ。

猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏という、ほぼ意味の等しい、動物の出てくる諺がある。言うまでもなく、価値の分からないものにいくら値打ちのあるものを与えても意味がないことを指す。

しかし待てよ?

猫に小判の値打ちは分からない→人には分かる。

豚に真珠の価値は分からない→人には分かる。

でも馬に有難い念仏の意味は分からない→人には分かる…は成立しないのではないか?

有難い念仏の値打ちを理解する人は如何程いるだろうか?

例えば今日みたいな暑い日。

「早くウチに帰って冷たいビールでも飲みながら冷奴でも食べたいなあ」と、考えている人間にだ。耳元でいくらアラブの偉いお坊さんが念仏を唱えても、きっとそれをされた人は恐れ慄き、訝しがるに違いない。

「何なんだ?アンタはいったい!」と。

残念ながら「やがて心うきうき」とは決してなりはしない。

…というような訳で詰まるところ、ここでは猫と豚は共通のグループだが、馬は仲間はずれになってしまう。これではいけない。

方法はある。

動物三点セットの諺にしたければ「馬の耳に念仏」をやめて「馬耳豆腐」にすればいいだけだ。

わっかるかなー?
わかんねーだろなー

そんな事を考えながら最後の青豆豆腐の冷奴を口に運んだとき、ソクラテスの背中が確かに見えた気がした。

関西人の沽券が守られた昼下がり、蕎麦は本当に美味しかったよ。



浦和旅



おそらくそこで暮らしのある友人に誘われなければ一生訪ねる事がなかった可能性の高い場所、浦和。



駅前の路地では新旧が混在し、夕刻からは飲屋街、日中は明るい商店街として賑わっていた。



京都で例えると昼間は屋根のない寺町通り、宵からは古き良き時代の木屋町通りの風情の二面性を持っている街といった感じだろうか。



街もそこに住む人たちも健やかでとても居心地が良かった。


2015年7月21日火曜日

臨時休業のお知らせ

2015年 7月22日(水曜日)は都合により、休業させて頂きます。
ご迷惑をおかけ致しますが、ご了承の程、宜しくお願い致します。


女王様の取り扱いには注意

先週の木曜日、早起きして”名画座”的な映画を観に行く。

今週は”アフリカの女王”。

明日までの上映だったので台風の影響を考えると選択肢は今日しかなかった。



この企画映画シリーズの致命的欠陥は朝の10時から1日1本しか上映しない事だ。夜中に仕事してる身としてはかなりヘヴィな時間帯…まあ、今日の夜はどうせ暇な台風ナイトになると思うけど、それにしても眠い。

映画館に行ったら必ず帰りにガチャガチャをやる。たぶんこれはもう習性のようなものだ。
今日は永井豪のマジンガーシリーズをみつけた。

ロケットパンチを発射しているマジンガーZが欲しかったのだけど、サンダーブレイクを撃とうとしているグレートマジンガーが出てきた。



サンダーブレイクっていうのは指先から雷を落として敵を攻撃する必殺技のひとつだ。

時たま、嫁さんがこの技を使って僕を攻撃する事があるので要注意。

ボギー、あんたの時代は良かった…

2015年7月9日木曜日

ダブル ラッキーエビス

もう30年ほどバーの仕事に携わってきたけど、1ケースの中から2本のラッキーエビスが出てきたのは初めてじゃなかろうか?

どーも運を無駄遣いしてる気がする…


2015年7月4日土曜日

反抗の酒

旅人―――

Barには時々、旅人がやってくる。

観光、仕事、放浪…地元の人ではない方々。
つい先日、旅人が月読にやって来た。お客様なのだから“お越しくださった”とか書くべきなのだろうが、ここは旅人らしく“やって来た”とさせて頂こう。

男性、それも同世代くらいか…
1杯目のジンをオンザロックで飲みながら、旅人はバックバーの棚にあるレコードを眺めている。
「この店はジャズ、ですか?」と旅人が僕に問う。

このテの質問に答えるとき、僕は他のお客様の状況や問いかけた人のタイプによって内容を変えている。

タイプAの答え
「はい、概ねジャズです」

タイプBの答え
「概ねジャズですが、時々ビートルズやカーペンターズなどをかける事もあります」

今回は店が暇で―――雨も降っていたからだと言い訳しておこう―――、この旅人も“なんとなく”そんなニオイがしたので僕はタイプCの答えを口にした。

「概ねジャズですが、時々ビートルズやカーペンターズ、キャロルキングなどをかける時もありますし、場合によっては昭和歌謡を流したりもしますよ。どちらかというと本質は“昭和歌謡Barを目指しています w  ああ、あとは中島みゆきとか―――」と言いかけたとき旅人が少し声のトーンを上げて僕に聞き返してきた。

(旅人)「中島みゆきがあるのですか!?」

「ええ、最近のはないですけど、昔のは全部揃ってますよ」

(旅人)「レコードで?」

「ええ、レコードで」

(旅人)「…」

「何なら今から、かけましょうか?」
という事で、旅人が2杯目のジンをゆっくり飲んでいる間にLPを二枚ほど聴いただろうか。
ターンテーブルが止まって音が途切れた時、再び旅人が話し始めた。

(旅人)「実はですね、昨日は横浜にいたのですが偶然入った老舗のBarで中島みゆきを聴かせてもらったのですよ、それもYouTubeで w」

「老舗のBarとYouTubeと中島みゆきですか! どこにラインを結んでも全部違和感のある組み合わせですね w」と僕。

(旅人)「そうなんですよw あのう、それでですね…YouTubeの音とレコードの音を聴き比べてみたいので、昨日、横浜のBarで聴いた曲をリクエストしてもいいですか?」

「もちろん、その曲があれば、ですけど…」

*** 世の中はいつも変わっているから ***

(旅人)「あ、その前にお代わりをお願いします。何でも飲めるので最後は”お任せ“しますので何かください」
*** 頑固者だけが悲しい思いをする ***

(旅人)「やっぱりレコードの音は違いますよね!」

*** 変わらないものを何かにたとえて ***

(旅人)「この曲を聴くと思い出すんですよね、子供の頃に観てたTV番組…」

*** その度崩れちゃ そいつのせいにする ***

「ああ、“金八先生”でしょ?」

*** シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく

*** 変わらない夢を 流れに求めて

*** 時の流れを止めて 変わらない夢を

*** 見たがる者たちと戦うため


そうは答えてみたものの、僕は“変わらない悪夢を見たがる者たち”の系譜と、それから、沖縄のことも思い出していた。






――― 頭の中で少し旅をした ―――

1700年初頭。
戦争でスコットランドはイングランドに併合され、ウイスキー造りはそれまでの何倍もの重税を課せられるようになった。

それに抗う人々は山深い奥地に隠れ、密造を始める。(モルトの銘柄に“グレン―谷―”がよくつけられているのはその名残だ)

そして100年以上後の1823年、ついに政府は税収がままならないために酒税法改正に踏み切り、以前のように公にウイスキーを造る事が出来るようになった。

レジスタンスの勝利だった。

ただもう一点、興味深い事もある。

この密造時代にスコッチウイスキーの最も特徴的であるピートで麦芽を乾燥させる事と、シェリー酒の空樽で寝かせて琥珀色に熟成させる事が始まっている。

暗黒の時代であってもなお人は知識や技術のスキルアップを可能とし、熟成し得ることが出来るのだという事実。

シングルモルトは“レジスタンス”、“反抗”のシンボリックな酒だと思う。



――― 旅人の3杯目のご注文。

世情を聴きながら、僕は“お任せの酒”を注ぐためにモルトの並んでいる棚に手を伸ばした。