ホームページ

〜Bar月読ホームページ〜
http://bartsukuyomi.wix.com/home

2015年10月15日木曜日

ブックカバー

ショッピングモールの中にある、ちょっと大きめの本屋に行って文庫本3冊を買った。そしてレジで支払いをしているとき、”あぁ、ハズレだなぁ…”と思う。

その店員は若い男性だった。
いや、別に若くて美人の女性を期待していた訳ではない。(もちろんそれに越したことはないが)
その店員が無愛想で目も合わさず、ニコリともしなかったことに腹を立てた訳でもない。(マクドナルドに来たのではないのだから)

僕は文庫本を買うときは必ずブックカバーをつけてもらうようにしている。このカバー、上手い人が折り目を付けると読んでいる途中、ページがどの角度に曲がっても違和感なく、心地よく読み進めることができる。逆にそうでない場合、”ギシギシした音がなるような感じ”がしてとてもストレスがたまる。

そしてこの若く無愛想な男性店員、手元がぎこちなく、何度もカバーに折り目を付けるときに動作が止まっていた。上手い人がそれをする場合、必ずその作業は流れるようにスムーズだ。


この差はどこで生まれるのだろう?
仕事のキャリアの違いだけではなさそうだ。きっと彼はあまり本を読まないのだろう。自分の経験がないからそれが理解できない。肩こりの経験がない人が他人の肩を揉むときにツボが分からないのと同じだ。

彼が3冊の文庫本にぎこちなくブックカバーを付けている間、僕は本屋に勤めながら、あまり本を読まない店員の将来について考えていた。
この仕事、きっと好きで働いている訳ではないのだろうし、長くは続かない。次の仕事は何を選ぶのだろうか?マクドナルドの面接は受けるだけ無駄だろうな、と思ったところでやっと取り付けが完成した。

購入した文庫本を家に持ち帰り、昨日の夜に飲み残したワインをお供に読み始めた。
…はやりカバーの折り目がギクシャクしていて読み辛い。嫌な予感は大抵の場合、当たってしまう。

”だったら自分でカバーを付け直せばいいだろう”と思うかもしれない。でもそれは出来ない相談なのだ。自分自身が読みやすく器用に折り目をつける事が出来ないのを既に知っている。何故なら僕もあの店員と同じようにあまり本を読まないからだ。(自分で書いていてとても残念な話だ)

でも幸いにして僕は本屋の店員ではない。その幸運とを相殺することでカバーの折り目と”折り合い”を付けることにした。

ただ本はまだ1冊目であり、僕の幸運はあと2個ほど足りなかった。








2015年10月8日木曜日

村上春樹を読まない僕の、彼への巡礼の旅

最近、禁断のブツに触れている。村上春樹氏(以下敬称略)の小説だ。もちろん今までに一冊も読んだことがない、というわけではない。村上春樹が嫌いな訳でもない

正確には…多分…”アンチ村上春樹ファン”なのだ。(念のため書いておくけど冗談半分、遊び半分に言ってるので本気モードで突っ込んでくるのはやめて下さい、気が弱いから)

あれだけの部数が売れるほど、本当にあの世界観が好きな人がいるのか?とか、優勝直前に急に阪神ファンが膨れあがるのと同じで、単に流行に流されてるだけだろ?…とか反体制派wとしては思う訳なのだ。

あともうひとつ、学生のときに付き合っていた彼女が僕を捨てる穴埋めとして替わりに、別れ話に添えてノルウェーの森 上下巻をセットで与えてくれた。そこに如何なる意味があったのか未だに解読出来ていないし、結局その2冊は彼女の抜けた穴を塞ぐには形も大きさも違うようだった。答えのないパズルを解こうとする事ほど虚しい時間はない。ただあの出来事が僕を村上春樹から遠ざけた決定的出来事だったことだけは確かだ。

それがなぜ今、村上春樹なのかというと、月読で村上春樹の短編からの”なにか”を題材にしたイラストレーションを数ヶ月毎に展示するという試みを行っている。動機はそのイラストレーターが村上春樹の大ファンだったから、まあそれが良いだろうという事になった。

おっと、村上春樹ストにこういった言い方は、つまり安直で”軽く”思われる言い回しをしてよく厳重注意を受ける(ホントに受ける)のでタブーだった。”ファン”なんて安っぽい言い回しはよくない。彼女が「村上春樹を”敬愛している”から」だ。

そう言った訳で、最近はお客様との話題が件の作家作品についてになりやすい。でもそこで僕が「2、3冊しか読んだことないので、あんまり知りません」というのもなんだし(本当はもう少し読んでるけど)、上記の理由をたらたら説明し終わる頃にはジントニックの氷が溶けて水割りに変わってしまうかも知れない。で、渋々(嘘)読んでる訳だが、ここに来てとても大きな問題にぶつかった。

ノーベル賞だ。

もし彼が受賞したらどうなるか?本屋という本屋に宣伝広告が立ち並び、彼の膨大な作品群が売れまくるのは間違いない。そんな中で自分が彼の小説を立て続けに読んでいる図…

おめでとう!今日から君も立派な”にわか阪神ファン”の仲間入りだ。

ようこそ歓迎するよ。ここは安住の地だ。ホントはキミもずっとここに来たかったんだろう?

と、頭の中で誰が僕にずっと囁き続けることになるし、きっと僕はそれに耐えられない。喪失と彷徨の始まりがやってくる。

村上春樹氏にも悪いと思うし、彼を敬愛し受賞を待ち望んでいる方々にも申し訳ないが、一身上の都合で受賞するのは出来れば来年以降にしてはもらえないだろうか…と切に願っている。

…ああ、僕はいまいったいどこにいるのだろう?