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2016年1月17日日曜日

お知らせ

★2016 1月17日(日曜日)から19日(火曜日)まで法事のため、臨時従業させて頂きます。ご迷惑をおかけいたしますが、御了承下さいませ。

2016年1月14日木曜日

正月あけは暇すぎる、ましてや寒い夜ならなおさらだ。

去年の秋からとある事情により、村上春樹作品(エッセイ、ドキュメンタリーを除く)の完全読破計画を実行中で、あと3作品を残すのみとなりました。

ただ、ここにきて、なんとなくゴールして終わってしまうのが惜しい気持ちと、ちょっと一旦一息いれようかということで、ミステリーを読んだのです。古典的名作なので、知っている人も多いだろうハリイ ケメルマンの「9マイルは遠すぎる」。

これは以前に読んだことがあって、それがハードカバーだったのかは忘れてしまったのだけど、本屋で偶然に文庫本を見つけたので思わず買ってしまいました。



簡単に説明すると、これはミステリーの短編集で、表題の「9マイルは遠すぎる」はハリイ ケメルマンの処女作。ページ数はなんとたったの18ページしかありません。ところがこの短い話は、ミステリー史上トップクラスのプロットだと言われているのです。

さわりだけいうと、こんな感じ。

群検事の”私”が語り手でシャーロックホームズでいえば”ワトソンくん”。友人の英文学教授、通称ニッキーが役柄的にはいわゆる”安楽椅子の探偵”でホームズ役。

彼らはチェス仲間で、ある日、田舎のレストランで食事をしています。そこでの話題は、”ある短い文章から、色々な推論を仮定していくことが可能だ”ということ。この話題は食事が終わっても続いていきます。レジでチェックを済ませているときも。

「では試しに単語10から15個程度の文章を何かいってみてくれ、その文章から僕がいくつかの推論をお目にかけよう」

と,ニッキーが”私”にいいます。

レストランを出て帰る道すがら、”私”は

「では、9マイルもの道を歩くのは容易ではない。ましてや雨の中となるとなおさらだ”ではどうか?」

と,いいます。

ニッキーはたったこれだけの文章(実際は会話)から、殺人事件が起こったことを推理し、しかも犯人が今何処にいるかさえ当ててしまうのです。

なかなか面白そうなプロットでしょう?

ただ僕は、この話は以前に読んでいたので新鮮ではなかったし、むしろ他の短編(この二人が出てくる一連のシリーズ)を読み終えて、つまり一冊を読み終えて、まったく違うところに興味をもったのです。

この短編集には序章があって、作者がいかに長い年月をかけて、「9マイル…」を完成させたかと、ミステリーの王道は短編であり、そのプロットの斬新さだというような事が書かれているのです。
つまり彼、ハリイ ケメルマンは長編のミステリーは読み手をわざと違う結論に導く為に敢えて余計な情報を織り込み、その結果、作品をつまらなくする。短編ミステリーこそが謎解きを純粋に楽しめるツールなのだといっているのです。

さて、この一冊はニッキーシリーズとして作品発表した時系列の順に短編が進んでいきます。つまり”9マイル”がトップにあり、その後に7作の短編が続くのですね。

僕が興味深かったのは、プロットの面白さでは間違いなく”9マイル”が群を抜いて素晴らしい。なのに読後感としての面白さは後の作品になる程、より面白く感じてくる点。

なぜだろう?これはハリイ ケメルマンの”プロット命説”に矛盾してしまう。

もしこの感想が僕個人の選り好みによるものなら仕方がないのだけれど、そうでないなら幾つかの原因が考えられます。

「9マイル…」は処女作なので、順を追って作者の文章力があがった。

同じような理由で、翻訳者がこの世界観を体得して、後になる程、テンポよく訳され読みやすくなった。

この2つも”アリ”だとは思うのですが、おそらくいちばん納得いくのは、読み手である僕自身がこの世界観に慣れ親しんで、キャラクターに愛着を持ち得たからではないでしょうか。

後になるほどに、行間に書かれてはいない彼ら登場人物の息遣いが聞こえ、推理には関係のない無意味な動作が見えるようになってくるのです。

そういう意味において、序章のハリイ ケメルマンの見解、短編&プロットこそミステリーの王道説は、否定はしないまでも、あまりに短いとせっかくのプロットがもったいない気がしてきます。もし彼が晩年、「9マイル…」をセルフ リメイクしたらもっと面白くなったのではないかという気もするのですが、こんなことをいうとファンに叱られるかもしれませんね。


さて、今夜からは村上春樹に戻ります。

次はアフターダークです。

2016年1月13日水曜日

象徴としてのサンタマリア

「この店のお勧めはなんですか?」と訊かれると困ってしまいます。

お勧めじゃないものは仕入れていませんし、こちらがお客様の嗜好を把握していないのに、まったくタイプの違う何十種類のお酒の中から選ぶのは不可能だからです。

せめて「バーボンの中でお勧めは?」とか、「デザート酒でいいのある?」という風に訊いて頂けると助かるのですが、まあ、なかなか難しいものがありますよね。

ところで、”お勧めの酒は?”という問いかけには答えに窮するのですが、”この店を象徴する酒は?”という質問があれば(まずそんな質問はないでしょうが)、それには即答することが出来ます。
それは沖縄県、伊江島で造られているラム、”サンタマリア”です。



このラムとの出会いは、沖縄に旅行に行った帰りの空港のショップでした。友人や常連のお客様への土産にしようと思ったのです。

京都に着いてから自分の店で試飲して驚きました。そしてその日からbar月読のメインラムになり、とくにダイキリなどのホワイトラムを使うカクテルには、今ではなくてはならないものとなっています。

”象徴”という意味において、それはたんに美味しかったからだけという訳ではありません。
このラムに出会ったとき、それは有名なものではなかったし、ブランドものでもなかったし、究極に完成されたものではありませんでした。おそらく京都で殆どの人が知らないであろう、国産の、それも大手企業ではない小さな蒸留所のラムを使ってメインのカクテルを作るということは、barにとってかなりのリスクを冒すということです。

ブランド、広告戦力なしで、自分の信じる感性と味覚だけで、お客様に納得して頂けるかどうか…
沖縄から帰ってきて、店で初めてこのサンタマリアでダイキリを作って飲んだとき、それまでに感じたことのない豊潤な大地の匂いがしました。遥か昔、ジェニングス・コックスがキューバのダイキリ鉱山で作って喉を潤したカクテルも、もしかしたら同じ香りがしたのではないかと想像できるような。

僕はかれこれ30年ほどbarというものに携わってきたけれど、そんな風にして何の予備知識もないお酒を自分の店の”お勧め”にしたのは初めてです。つまりそのポリシーとか”在り方”について、が、この店の”象徴”な訳です。そしてこれからもそういったものを探していきたいと思っています。
さて去年の年末、とても嬉しいことがありました。

よく、年末に”今年の10大ニュース”とか言い合うでしょう? 他のジャンルは色々と迷うことが多かったのですが、お酒についてのニュース、出来事はそれがno.1でした。
関東から大阪に出張していたお客様、わざわざブログを読んで京都まで月読に足を運んで頂きました。

数杯飲んだあと、バックバーに並んでいる酒の列を見て、「ちょっとその酒を見せて下さい‼︎」とそのお客様。

それは数量限定で発売されたサンタマリアの樽出し”T1”。

そのお客様の話によると、以前、アメリカのシアトルで(出張で)ラム専門のbarに入ったそうです。そこは在庫総数で全米no.2の300種という本数を持っていて、そこのマスターが、彼が日本人だと知るとスマホの写真を見せながら、「君はこのラムを知っているか? 私が日本に行って飲んだラムの中でいちばん美味かったラムだ!」といったらしい。

彼は知らなかったし、飲んでみたかったので注文すると、「私も是非とももう一度、飲んでみたかったので、帰国後すぐにネットを調べてみたが、既にソールドアウトだった…オーマイガー」というような返答だったらしいです。

そして「君が日本に帰ったら探してみるといい、ラムが好きなら是非とも飲んでみるべきだよ」と。
サンタマリアが遥かアメリカで、それも全米トップクラスのラム専門barで高い評価をされているのがとても嬉しかったので、このニュースが2015年の”酒に関する10大ニュース”のトップです。

生産関係者ではないのですけどね。w