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2013年2月6日水曜日

『おいしい』の仕組みを考える Ⅵ

☆作るのが最も難しいカクテルは何だろう?

*ーー* 優しすぎたアクエリアス (後) *ーー*


『水割り』の続きです。

★不可思議なスイートスポット・・・

1:1の比率を超えた水割りのスイートスポットは本当に存在しないのでしょうか?

ウイスキーに少しずつ加水して味を確かめます。

因みに”水割りの美味しい作り方”を本やネットで調べてみると、だいたいウイスキー1に対して水は2~3が良いとされています。殆んどは1:2が主流ですが。

そこで、1:1 1:2 1:3 1:4の配合で加水して味を確認しました。(因みに私はウイスキーをストレートで美味しく飲めます。つまり刺激の耐性はあります)

面白いことに水割り配合比が1:4でも”甘い”のですね。どうしてだか分かりますか?

これはおおよそ1:3を超えた辺りで、ウイスキーに加水しているのではなく、水にウイスキーを足して”水の甘さをウイスキーが引き出している(+ウイスキーの甘さ)という逆転現象が起こるからです。

加水の分量を増やしていく過程で、”美味しいウイスキー”から”美味しい水”に変わるのです。
そこまで行くと流石に酒とは言い難いのですが、加水量が1:1を超えても取り敢えず”甘さ”は存在するし、急速に劣ることはないようです。

(前)のBでも触れたようにウイスキーは瓶詰めされた段階でもうすでに加水されています。つまりウイスキーと水は定義③の和合性を持ち合わせています。その結果、甘味というスイートスポットは結構、幅広く取れるのです。

これが様々なレシピ本の配合比が1:2~3という曖昧なものにしている理由です。



★水割りの欠点・・・

しかしながら決定的な欠陥があります。

水には定義②の複雑性がないので、本来、複雑性に素晴らしく富んだウイスキーの味(香)を1:1を超えたところから急激に薄めていくことになります。

この味覚としての複雑性が薄れることは防ぎようがなく、水割りを作る上でアルコール刺激のない人が飲みやすくするための不可抗力として受け入れなければなりません。

よく美味しい水割りを飲んで「香も立っている!(水割りなのに)」とのコメントがあったりしますが、あくまでも”水割りにしては”であり、トゥワイスアップと同等に香が立つ水割りは存在しません。





★水割りの基本レシピ 1:2は本当に美味しいか・・・?

大手のウイスキーメーカーが推奨しているこのレシピ。喧嘩を売る訳ではないのですが、どうも個人的には強すぎるきらいがあります。

実際、何人かの市井のバーテンダーに尋ねてみたところ、概ね「自分としてはちょっと強い(アルコール度数)と思う」との答えでした。

メディアなどに載っている著名なバーマンが作る、超美味しい水割りのレシピは殆んど1:2で作られているようです。私はそれを飲んだことがありませんし、殆どの人がそうでしょう。

どんなに超美味しいモノがあったとしても汎用性がないものを一般的な話としてする訳にはいきません。それを目指さなければならないのは確かですが・・・


さて1:2がどうして美味しく思えないかという理由ですが、1:1の比率でピークを迎えたウイスキーが更に加水され1:2の辺に差しかかったとき、刺激が減り、味、香の複雑性が落ちていきます。その中で甘味は多少、まだ増幅傾向にあります。

この時、ウイスキーの味の中で甘味以外に増幅されるものがもうひとつあります。

それは『苦味』です。

1:2周辺の最も増幅された苦味は刺激好きな人同様に、ある人たちには心地よさに繋がりますが、苦味を苦痛に感じる人もまた多くいます。



★美味しい水割りの条件とは・・・

1 1:1以上に加水しても甘さはあります。

2 味としての複雑さは必ず失います。

ということは、1、2を踏まえた上で、より香を残し且つ、苦味を感じさせない水割りが美味しいという事になります。

マティーニは総合的なスイートスポットから外れた中に微かな甘味を探し出す、バーテンダーとお客様が相互理解した上でのゲームでしたが、水割りは総合的なスイートスポットから外れたレシピの中に、如何にして苦味を抑え、香を残せるかという、バーテンダーだけの苦行が存在するカクテルなのです。

・・・水商売とはよく言ったものでしょ?(笑)





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