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2012年12月9日日曜日

静寂に沈む月

★夕日の色を知らない人はいないと思いますが、同じように西の空に沈みゆく月(満月かそれに近い月齢)が何色になるのか知らない人は多いと思います。

稀にですがそれは金色に輝くように光ります。「金色のように見える」ではなくて、本当に黄金色になるのです。それもまわりの雲までも金箔のように染めながら。仕事の終わる時間の関係でよく目にするのですが、あの光景は神々しくさえ見えます。



★幼少の頃、今はもう亡くなった父の運転する車に乗っている時、いつも後部座席に座らせられていました。

夜、よく窓の外を見て月を探したものです。子供の質問の定番である「どうして月はずっと後をついてくるのやろう?」という問いかけをした記憶が確かにあります。ただ残念なことに両親がその問いにどう答えたのかは覚えてはいないのですが・・・


★幼少の頃といえば僕は躰が弱く、扁桃腺を腫らしたり風邪をひいて熱を出すのは日常茶飯事でした。

当時、バスで4つ先の停留所に評判のいい耳鼻咽喉科があって、そこが僕の”行着け”でした。そこの先生は優しかったし何より病気がすぐに治ったのでとてもいい病院だったのですが、たったひとつ大問題がありました。それは夜の診療しかしていなかったので、その時間、僕にとってはすごく大事な仮面ライダーの放送時間とかぶったのです。当時はビデオなんてありませんから録画はできません。しかも病院に行く日は往々にして『仮面ライダー1号、2号そろい踏みの回』とか前後編の後編を放映するスペシャルな日だったりするのです。

★病院への引率は父が当番を受け持つことが多かったように思います。たぶん夕食の後片付けを母がする関係だったからでしょう。父は自分が生まれてすぐに”自分の父”、(つまり僕にとっての祖父)を亡くしていて、父=子供という関係を経験したことがなかったので、自分が親になっても子供に対しては不器用で無口でした。


★ある日の夜、病院に行かねばならない日。その日は仮面ライダーの最終回でした。だからといって行かない訳にはいきませんから、泣いたか喚いたかをしたかも知れませんが、とにかく無理にでも連れて行かれたはずです。

診察が終わってバス停まで少し歩いてベンチに座る。通りの向こうにある市場はとっくに閉店していて、屋根にある大きな時計の針を見て「やっぱり間に合わなかった・・・」とガッカリ感満載で俯き、自分の靴に描かれていた何かのキャラクターを見ていたと思います。

バスの来る間隔は20分毎。運悪く少し前に行き過ぎた後だったようで、次が来るのを待たなければなりません。長く、たぶん感覚的に長く続いた沈黙のあと、突然、父が空を見上げて「・・・月が傘を被ってるから明日は雨やなあ」とポツリ。

有名な天気諺ですが、独り言だったのか、それともしょぼくれていた息子に向かって言ったのかはわかりません。ただそれを聞いて僕も同じように月を見て、そして「何で傘を被ったら雨になるの?」って聞き返しました。そこまでは覚えているのですが、やはり父がそれに対してなんと答えたのかは全く覚えてはいないのです。


★グレンモーレンジというシングルモルト・ウイスキーがあります。この蒸留所は熟成の仕上げに多彩な酒の空樽を使い、複雑な香り付けを施したウイスキー造りのパイオニアなのですが、その中の一本に『ネクタードール』というボトルがあります。

ネクタードールはデザートワインの空樽で仕上げを施した、蜂蜜のように甘く複雑な味と、その中に硝子の破片のように微細で鮮烈なレモンの香りを探し出すことが出来ます。


★グレンモーレンジの意味は『静寂なる渓谷』

そしてネクタードールは『黄金の果汁(もしくは神の酒)』

このウイスキーを飲む時、僕はあの日の夜のことを思い出します。特撮ヒーローの勇姿は観られなかったけれど、もしかしたら黄金の果汁を飲むような濃密で、かけがえのない時間だったのかも知れません。


★月の質問をしていた幼少の頃。

翻って現在、毎日のように店に行き、シャッターを開ける。

ふと脇の看板を見て、気付くとまだ月は追いかけて来ていた。

思い出せなくても、いつか自分の答えを見つけることが出来るのだろうか?





この歌が好きなのは多分、こんな理由で。

http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=hGuKoEAG5NQ

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